第31話:小さな手と、はじめての『ヒール』
「くぅん……」
弱々しく鳴く子狼の姿に、
私の胸は締め付けられるようだった。
前足からはうっすらと血が滲み、呼吸も浅い。
(どうしよう……!
お兄様に『お屋敷からお薬を持ってきて』って頼む?
ううん、それじゃ間に合わないかもしれないわ!)
焦る私の前で、お兄様も
じっと子狼を見つめていた。
剣の柄に伸ばしていた手をそっと離し、眉をひそめる。
「……攻撃してくる様子はないね。
でも、こんなに怪我をしていては……」
お兄様の声にも、戸惑いと痛ましさが混ざっている。
(お兄様だって、助けてあげたいはず。
……よし、決めたわ!)
私はよちよちと小さな足を踏み出し、
お兄様の背中から一歩前に出た。
「っ! オリカ、ダメだ、危険だよ!」
お兄様が焦って手を伸ばしてくるけれど、
私はゆっくりと子狼に近づき、
その目の前で、ちょこんとしゃがみ込んだ。
子狼は怯えることなく、つぶらな瞳で私を見つめ返してくる。
私はその痛々しい前足に、小さな手のひらをそっと重ねた。
(……確か、回復系の生活魔法って……『ヒール』よね?
擦り傷や擦り創をほんの少し和らげる程度の、
一番初歩的な生活魔法。
……魔力は、絶対に『1』だけ!
これなら、ちょっと血が止まるくらいで済むはず……!)
私は心の中で強く祈りながら、
指先にほんのわずかな魔力を込めた。
(お願い……良くなって!)
「……『ヒール』!」
私が心の中で唱えた瞬間――。
ちゅどんっ!!
……という、回復魔法とは思えない
謎の重低音が森に響き渡った。
(えっ……重低音!?)
私の手から溢れ出したのは、
柔らかな緑色の光……なんて優しいものではなかった。
まるで満開の桜と大自然の生命力が一気に爆発したかのような、
眩いばかりの『黄金と翡翠の光の柱』が、
子狼と私を力強く包み込んだのだ!
『!?!?!?』
頭の中で、あのシステム音がファンファーレと共に鳴り響く。
『特殊生活魔法:ヒール(魔力1注入)⇒
【神癒の息吹・領域展開】
の生成に成功しました。
※対象の傷・全疾患・肉体疲労を即時完全全快させ、
さらに永続的な「全属性耐性」および「聖獣化の祝福」を付与します』
(全属性耐性!? 聖獣化!?
ちょっと待って、ただの擦り傷を治したかっただけなんですけどーっ!?)
光が収まると、そこには――。
傷が完治したどころか、毛並みがツヤッツヤのピカピカになり、
神々しいオーラを纏った「超絶元気な子狼」が立っていた。
「……くぅ〜んっ!(シャキーン!)」
子狼は元気いっぱいに尻尾をぶんぶん振り、
私の顔を嬉しそうにレロレロと舐め回してくる。
(助かったのは良かったけど……良かったけど……!
後ろのお兄様を見るのが、めちゃくちゃ怖い……!!)
私は冷や汗をダラダラと流しながら、
おそるおそる、後ろにいるお兄様の方を振り返った。




