第29話:お兄様の特訓成果
木漏れ日が心地よく差し込む、森の中の小さな空き地。
私は柔らかい草の上にちょこんと座り、
お兄様の勇姿を見上げる体制を整えた。
「よし、オリカ。見ていておくれ!」
お兄様は真剣な表情になると、
すっと背筋を伸ばし、右手を前方へとかざした。
その金色の瞳が、集中によってキリッと冴え渡る。
(おお……! 流石は公爵家のお兄様。
まだ幼いのに、佇まいだけでめちゃくちゃ様になってるわ!)
「集え、小さき火の灯火よ……『ファイア』!」
お兄様が短く詠唱を唱えると、
その指先から、ぽっと小さな赤色の火種が灯った。
大きさは、ロウソクの炎くらい。
それが、お兄様の集中に合わせて、
指先の上でゆらゆらと安定して浮かんでいる。
(すごい……! これが本来の正しい魔法の発動よね!
魔力を無駄に使わず、ちゃんとコントロールできてる!)
「ふぅ……よし。
次はこれを、あそこの小さな的(標的の木)に放つよ!」
お兄様が指を振ると、
小さな火種はまっすぐ飛び、数メートル先の的に命中して
パチッと小さな音を立てて消えた。
「どうだい、オリカ!
まだ基礎の基礎だけど、魔力を散らさずに
ターゲットへ飛ばせるようになったんだ」
汗を少し浮かべながら、
得意気に「どうかな?」とこちらを見るお兄様。
その顔は「褒めて!」と書いてあるかのようだ。
(うわぁぁん、お兄様すごい!!
努力家で、ちゃんと段階を踏んで練習してて偉すぎるわ!)
私は嬉しくなって、
「ばぶーっ! ばぶばぶ!(すごいすごい、お兄様かっこいい!)」
と、小さな両手でパチパチと全力の拍手を送った。
「はは、ありがとうオリカ。
君に褒めてもらえると、練習した甲斐があるよ」
お兄様は満足そうに目元を緩め、私の頭を優しく撫でてくれた。
(うんうん、やっぱりこれくらい素朴で可愛いのが
本当の『基礎魔法』よね。
私のあの規格外の暴走っぷりがおかしいだけで……)
お兄様の正常で素晴らしい魔法を見て、
ほっと胸を撫で下ろした私だったが――。
「よし、次は少し魔力を強めて、
『ウィンド』の練習をしてみようかな」
お兄様が再び気合を入れ直した、その時。
森の奥の茂みから、ガサガサッと不穏な大きな音が響いた。




