第26話:絵本から飛び出たのは……?
一瞬、絵本の中のウンディーネが、
ふわりと青く発光したような気がした。
(えっ、待って。今、確かに魔力が吸い取られたような……)
私が慌てて指を引っ込めようとした,その時だった。
絵本に描かれていた平らなウンディーネのイラストが、
ぐにゃりと立体的に盛り上がり始めたのだ。
(うそ、ちょっと、なんで飛び出してきてるの!?)
光の粒子を撒き散らしながら、
本の中から3Dホログラムのように立ち上がったのは――
絵本に描かれていた通りの、
二頭身でデフォルメされた、手のひらサイズの「水の精霊」だった。
姿形はちっちゃくて最高に可愛い。
けれど、その小さな体から放たれているオーラは、
息をのむほど美しく、神聖で、高貴な本物の上位精霊そのもの。
キラキラと透き通る青い髪をなびかせ、
私の指先に、そっと優しく触れてきた。
ひんやりと冷たくて、でも驚くほど心地いい。
(いやいやいや! 可愛いけれどオーラがおかしいでしょ!?
これ、ただの子供向け絵本よ!?
なんで本物の、しかも最高に気高い水の高位精霊
ウンディーネ様が召喚されてるのよーっ!)
あまりの事態に私が固まっていると、
頭の中で例のシステム音が容赦なく鳴り響いた。
『特殊生活魔法:ピクチャー・クローン(魔力1注入)⇒
【万物具現・極小化】
の生成に成功しました。
※絵や図鑑に描かれた存在に「一時的な命と実体」を与え、
使役することができます(今回は魔力1のため、手のひらサイズ限定)』
(生活魔法って、絵から本物の精霊を具現化できるの!?
そんなの聞いたことないわよ!
しかもこれ、お兄様の目の前――)
最悪のタイミングだった。
すぐ隣で絵本を覗き込んでいたお兄様が、
完全にフリーズしていた。
落とした本を拾うことも忘れ、
金色の瞳を限界まで見開いて、
絵本の上で神々しく佇んでいる、
デフォルメ姿のウンディーネ(極小)を凝視している。
「あ、あ……」
(お兄様……! これは、その……!
最新の超リアルな、立体魔法仕掛けの絵本,的な……!?)
私が「ば、ばぶぅ……」と涙目で必死にアピールすると、
お兄様はゆっくりと、
神聖な儀式でも行うかのように、両手で顔を覆った。
「……なんてことだ。
僕は、自分の想像力の浅さを恥じるよ」
(え? そっち!?)
「ただお風呂場にお迎えするだけじゃなくて……
オリカは、絵本というゲート(門)を通じて、
『本当に高位の水の精霊をこちらの世界に召喚』してしまったのか……!」
(違うの、お兄様!
ただの絵を一時的に立体化しただけなの!)
お兄様の金色の瞳から、
あまりの神々しさと妹の規格外の力への感動で、
ハラハラと美しい涙がこぼれ落ちた。




