第24話:お兄様の新たなる超解釈
窓は一枚も開いていない。
それなのに、私の部屋は
木漏れ日の差し込む太古の大森林のような、
あり得ないほど神聖で甘やかな空気に満ちていた。
私はベビーベッドの中で、
短い両手をパタパタと仰ぐように動かしながら、
「ば、ばぶー(あ、暑くてちょっとあおいでるだけです)?」と
必死のすっとぼけを実行していた。
(お兄様、これはね、あれです。
たまたま私の部屋の風通しが良すぎて、
ちょっと爽やかな風が吹いただけなの。本当に!)
しかし、床に本を落としたままのお兄様は、
その金色の瞳をこれ以上ないほど見開き、
驚愕と、そして深い深い納得の表情を浮かべていた。
「……そうか。
『光の精霊王』の次は、まさか、
『風の精霊王』、あるいは『世界樹の精霊』までもが、
オリカの健やかな成長を願って、
その神聖な息吹を注ぎ込んでくれているのか……!」
(違うの、お兄様!
精霊の「せ」の字もここにはいないわ!
これ、私がそこらへんのホコリをクリーンしただけ!)
お兄様は、ゆっくりとベッドに歩み寄ると、
まるで奇跡の聖遺物でも拝むかのように、
私の手をそっと、壊れ物のように両手で包み込んだ。
その金色の瞳は、もはや感動を通り越して、
妹への絶対的な崇拝に近い輝きを放っている。
「まだ言葉も話せない幼い君のために、
世界の偉大なる精霊たちが、
こぞって祝福の品(空気)を贈りに来ているんだね。
……ああ、オリカ。
君がどれほど特別で、愛されているか、
お兄ちゃんにはよく分かるよ」
(お兄様の超解釈エンジン、
本当に留まるところを知らないわね!?
でも、精霊たちのせいにしてくれて助かったような、
話がどんどんデカくなってきて恐ろしいような……!)
お兄様は、深く息を吸い込んで
その至高の空気を噛みしめるように目を閉じると、
嬉しそうに私の頭を優しく撫でた。
「よし、オリカ。
『風の精霊王』の件も、もちろん
僕たち二人だけの秘密だ。
……それにしても、こんなに素晴らしい空気に包まれていたら、
僕の魔力制御の訓練も、何倍も早く上達しそうだ」
(お、お兄様……!
なんか勝手にお兄様のモチベーションが
爆上がりしているわ!?)
「君が大きくなって、その偉大な力を自覚する日まで、
このルファスが、何者からも君を守ってみせるよ」
シーツを羽織ったパジャマ姿のまま、
金色の瞳に揺るぎない決意をにじませて
ふふんと胸を張るお兄様。
……うん、すっごく頼もしいし、格好いい。
格好いいんだけど、勘違いのスケールが
世界を救う勇者レベルに達してしまっている。
(お兄様、秘密を守ってくれるのはありがたいけれど、
このままじゃ私が大きくなったとき、
どんだけハードルが上がってるのか今から怖いわ……!)
お兄様のますます磨きがかかった超解釈によって、
私の「最後の生活魔法やらかし」もまた、
『風の精霊王の寵愛』という神話級の秘密として、
お兄様の胸に深く刻まれるのであった。




