第23話:最後の生活魔法実験
深夜の「光の精霊王(仮)降臨事件」から数日。
お兄様は約束通り、
夜の出来事をパパやママには一切秘密にしてくれていた。
その代わり、私のそばにいる時間が
今までの3倍くらいに増えた。
金色の瞳をキラキラさせながら、
「僕がオリカと精霊王の秘密を守るんだ」と、
ものすごい使命感に燃えている。
そんなお兄様が、勉強の合間に
私の部屋へ遊びに来ていた時のこと。
(ふふふ……お兄様、監視のつもりかもしれないけれど、
私はまだ諦めていないわよ!)
生活魔法の『ウォーター』『ライト』は、
どちらも規格外のゴッド級効果を発揮してしまった。
だけど、基本の生活魔法にはもう一つ、
お部屋をきれいにする『クリーン(洗浄)』がある。
水も出ないし、光りもしない。
ただ空気中の目に見えないホコリを
ちょっとだけ消し去るだけの、一番安全な魔法だ。
(これなら絶対、お兄様の目の前でやってもバレないはず。
今度こそ、ただの可愛い生活魔法を成功させてみせるわ!)
私はターゲットとして、
ベビーベッドの柵のすみに、
うっすらと溜まっている小さなホコリを見つめた。
(魔力1を、さらに針の先くらいに細く絞り込んで……
そこだけ、クリーン!)
ふう、と心のなかで息を吹きかけるように、
本当に微量の魔力を指先から放った。
シュパッ。
小さな風の音がした。
狙い通り、柵のすみのホコリが一瞬できれいに消え去る。
(やった……! 大成功!
光らないし、水もこぼれない!
ついに私は、普通の生活魔法を――)
そう確信して勝ち誇ろうとした、その瞬間。
脳内に、おなじみの非情なシステム音が鳴り響いた。
『生活魔法:クリーン(魔力1注入)⇒
【世界樹の波動・極小風】
の生成に成功しました。
※半径3メートル以内のあらゆる有害物質、
ウイルス、アレルギー源を完全分解し、
空気を「世界樹の頂上」と同等の純度まで浄化します』
(世界樹の空気をお取り寄せするなーーーっ!!)
直後、私のベビーベッドを中心に、
まるで大森林のど真ん中にいるような、
もの凄く澄み切った、
どこか甘く爽やかな風がふわあああっと広がった。
ただ呼吸をするだけで、
頭が信じられないほどスッキリとして、
体の細胞すべてが若返るような、
あり得ないレベルの超超超・新鮮な空気。
(ちょっと、ただのホコリ掃除よ!?
なんで部屋の中が、聖地巡礼したみたいな
神聖な空気感になってるのよーーーっ!?)
当然、すぐ横で本を読んでいたお兄様が、
ハッとして顔を上げた。
その金色の瞳が、驚愕に大きく見開かれる。
「こ、この空気……!
吸うだけで体内の魔力循環が活性化していく……。
これは、伝説に聞く『エルフの聖地』の空気と同じ……いや、それ以上だ!」
お兄様は本をバサリと落とし、
驚いたように何度も深呼吸をしながら、
またしても、ベッドの中で「ばぶぅ?」と
首をかしげている私を凝視した。
(お兄様! これはその、
ちょっとお部屋の換気をね!?
ほら、窓からいい風が入ってきただけで……!)
しかし、窓は一枚も開いていない。
お兄様の超優秀な脳細胞は、
このあり得ない「空気の激変」に対して、
すでに最高に都合の良い、新たなる超解釈を完成させていた。




