第1話:自分のステータスにツッコミが追いつかない
エヴェレット公爵家に
生を受けてから、数日。
私――もとい、
オリカ・エヴェレットは、
天蓋付きのふかふかすぎる
揺り籠の中で、
深刻な問題に直面していた。
(……家族の圧が、
強すぎる……ッ!!)
朝起きてから寝るまで、
とにかく家族が
ひっきりなしに部屋にやってくる。
「ああ、私の可愛い天使、オリカ。
今日も世界一愛らしいな。
パパはお前のために、
今日着る最高級の産着を
100着ほど用意させたぞ」
「あなた、そんな安物の布を
オリカに触れさせないで。
見てちょうだいオリカ、
お母様が世界最高峰の
絹織物職人をお招きして
紡がせた特注のドレスよ」
「オリカ、おはよう。
今日も僕の天使は可愛いね。
これは僕が魔獣を討伐して
手に入れた、
最強の守護の魔石だよ。
ガラガラにして遊んでね」
……パパ(一国の宰相)、
ママ(社交界の女王)、
お兄様(天才児)。
我が家の権力者たちが、
生後間もない私を囲んで
毎日毎日、狂ったように
貢ぎ物を捧げてくるのだ。
前世の孤独が
完全に吹き飛ぶどころか、
愛の重さで潰されそうである。
(うれしい、うれしいんだけど……
ちょっと一人にして!
お願いだから!)
生後数日とはいえ、
私には前世の記憶――
19年間の自我がバッチリある。
だからこそ、
四六時中大人たちに
見つめられているのは、
精神的にちょっと恥ずかしい。
何より、神様から言われた
「新しい力」について、
静かに確かめる時間が欲しかった。
幸いにも、赤ちゃんはよく寝る。
夜中になり、
見張りのメイドさんたちも
交代して部屋が
完全に静まり返った。
(よし、今だ……!
ええっと、こういう小説の
定番といえば、やっぱりこれよね)
私は小さな心の中で、
念じるようにその言葉を唱えた。
『ステータス、オープン!』
その瞬間、私の視界に、
半透明の光る画面が
ぽんと浮かび上がった。
===============
【名前】オリカ・エヴェレット
【年齢】0歳
【HP】∞
※詳細:前世の病弱の反動。
絶対に病気にならない最強の健康体。
外部ダメージを無効化する。
【MP】∞
※詳細:尽きることのない魔力の源泉。
空気中の魔力を自動で吸収し、
常に満たされ続ける。
【属性】???
【スキル】
・【折り紙】
・【錬金】
===============
……浮かび上がった文字を見て、
私は文字通り、固まった。
(ちょっと待って。
ツッコミどころが多すぎる)
まず、HPとMPの横にある、
見慣れた横向きの8みたいなマーク。
端的ながら恐ろしい詳細説明。
(絶対に病気にならない……
外部ダメージ無効って、
これもう無敵ってことじゃない!?)
前世で「元気な体に」とは
願ったけれど、
まさか病気にならないどころか、
絶対に死なないレベルの
無敵ボディを渡されるとは
思わなかった。
魔力(MP)にいたっては、
空気中から自動吸収して
常に満タンって書いてある。
使っても使っても減らない、
永久機関のようなものだ。
(神様、いくらなんでも
極端すぎない……!?)
冷や汗が止まらない。
もしこれが家族や国にバレたら、
それこそ「我が家の天使が
本当の神の御使いだった!」
とか言って、
パパやお兄様が世界を
ひざまずかせかねない。
(絶対、隠し通そう。
少なくとも、自分で自分の身を
守れるようになるまでは、
この異常なステータスは
絶対に秘密だ……!)
ぎゅっと小さな拳を握り、
固く決意する。
しかし、画面を
スクロールしていくと、
もう一つの謎にぶち当たった。
スキル欄だ。
(【錬金】はわかる。
ファンタジーの定番だし、
何かを合成したり作ったりする
便利スキルよね。
……でも、その上にあるの、何?)
そこには、
私の前世のすべてだった、
あの言葉が刻まれていた。
(【折り紙】……?)
ただの紙を折るだけの、
あの日本の伝統遊びが、
なぜか世界を揺るがす
チート能力たちと並んで
『スキル』として鎮座している。
(折り紙って……
折ったら何が起きるの?
詳細説明も書いてないし、
ただ鶴が完成するだけじゃなくて?)
気になる。ものすごく気になる。
今すぐ試してみたいけれど、
あいにくここは
公爵令嬢の豪華な
ベビーベッドの上。
あたりを見回しても、
折り紙に使えるような「紙」なんて
一枚も落ちていない。
(うう、早く動けるようになって、
紙を手に入れなきゃ……!)
未知のスキルに
胸を躍らせながらも、
赤ちゃんの肉体は
限界を迎えるのが早い。
私は押し寄せる強烈な眠気に
勝てず、小さなあくびを
噛み締めながら、
ふかふかのシーツへと
沈んでいった。
こうして、私の
「家族にチートを隠し通す、
スリリングな赤ちゃん生活」が
幕を開けたのである。
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