第197話(後日談2):未来への折り目と、特別な補習
放課後、夕暮れ色の光が差し込む特別教室。
私は一人、教卓に向かって新しい折り紙の展開図を描いていた。
「ふむ……折り目の角度を三分の一ずらすことで、魔力脈の散逸を防ぐ……実に素晴らしい発想です、オリカ様」
後ろから静かに覗き込んできたエリアス先生が、感心したように深く頷いた。
「エリアス先生! ……すみません、勝手に教室を使わせていただいていて」
「構いませんよ。むしろ、学園都市を救った偉大な魔導師の特別補習を行えるなど、指導者冥利に尽きます」
先生はいつものように眼鏡の奥の瞳を和らげ、隣の椅子に腰掛けた。
教卓の上には、学園の正式な研究論文として受理された、私の『千紙陣理論』の資料が綺麗に装丁されて置かれている。
「あの戦いの後、学園内だけでなく国外の魔導学会からも、オリカ様の折り紙魔法についての問い合わせが殺到しているのですよ。『脆弱な紙に絶対の強度をもたせる秘術』としてね」
「そんな……! 私、ただみんなを守りたくて、必死に折っていただけなのに……」
照れくささに私が頬を染めると、先生はあたたかな眼差しで私の手元を見つめた。
「それがあなたの魔法の真髄です。理論や技術だけではない、大切な人を想う心が術式に命を吹き込んでいる。……私はね、オリカ様。あなたの師であることを心から誇りに思っていますよ」
「エリアス先生……」
「卒業までの残りの時間、あなたがこの学園で思い残すことなく学べるよう、全力で支えさせていただきます。どのような難解な理論でも、いくらでもお付き合いしますからね」
「はい! よろしくお願いします、先生!」
頼もしい師の言葉に胸を熱くしていると、廊下から勢いよく扉が開く音が響いた。
「オリカ――ッ!! エリアス、我が愛しい妹に二人きりで怪しい補習をつけているというのは本当かッ!?」
大迫力で怒鳴り込んできたお兄様に、エリアス先生は「やれやれ」と小さく肩をすくめた。
「アレクシス様、純粋な学術的探求の時間ですよ。……まったく、過保護も大概にしてください」
「問答無用! オリカ、帰るぞ! 今夜はシェフが特別に、お前の大好きな甘いスフレを焼いて待っているんだ!」
「ふふっ、お兄様、先生に失礼ですよ。……でも、スフレ楽しみです!」
夕闇に包まれ始める学園で、大好きな人たちの賑やかな声が響き渡る。
私の心は、この上ない幸せで満たされていた。




