第196話(後日談1):約束のタルトと、変わらない日常
激しい戦いから数日が経ち、学園都市にはいつもの穏やかな時間が戻っていた。
「はい、オリカちゃん! 季節限定のイチゴタルトよ!」
日差しが心地よいカフェのテラス席。エレナさんが嬉しそうにお皿を私の前に置いてくれた。サクサクのパイ生地の上に、甘いカスタードと真っ赤なイチゴが宝石のように並んでいる。
「わあ……っ、すごく美味しそう!」
「だろ? ここのタルト、ずっと楽しみにしてたんだよな!」
向かいの席でライアン君が大きな口で自分のタルトを頬張り、幸せそうに頬を緩ませる。その足元では、ノワールがライアン君のおこぼれを狙うように鼻を鳴らしていた。
「ガウッ」
「こらノワール、タルトは体に良くないから、ノワールにはこの特製肉肉クッキーね」
私がポケットから取り出した折り紙模様のクッキーを差し出すと、ノワールは嬉しそうにシッポを振ってパクリと食べた。
「ふふ、本当に平和になりましたね」
エレナさんがカフェオレを一口飲み、しみじみと微笑む。
「ええ……本当に」
サクッ、とタルトを一口食す。口いっぱいに広がる甘酸っぱさに、心がじんわりと解けていくのを感じた。
前世の寂しかった病室。機械の音だけが響く中で、私はずっとこんな温かい時間を夢見ていた。
自分の手で折った紙が、大切な人たちを守り、こんなにも愛おしい「今」に繋がっている。
「あ、そういえばオリカ。さっき生徒会室の近くを通ったら、アレクシス様がまた恐ろしい顔で男子生徒を威圧してたぞ?」
「えっ……お兄様がですか?」
ライアン君が苦笑いしながら教えてくれる。
「なんでも『オリカに助けられたお礼を言いたい』って男子が列を作ってたらしいんだが、アレクシス様が『我が妹の貴重な時間を奪う気か! 感謝なら私に述べろ!』って全員追い返してた」
「もう、お兄様ったら……っ」
私が思わず顔を覆うと、エレナさんとライアン君が大笑いした。
戦いが終わっても、大好きな仲間たちと過ごす時間は変わらない。
甘いタルトの味とともに、私は満たされた幸せを噛みしめていた。




