第195話:折りたたまれた未来と、かけがえのない日常
「終わった……のね」
エレナさんがホッと胸を撫で下ろし、その場にへたり込んだ。
静けさを取り戻した地下大空洞に、散らばっていた黒い魔力の残り香が消え去り、澄んだ空気が満ちていく。
「やったな、オリカ! 最高に格好よかったぞ!」
ライアン君が大剣を背中に納め、眩しい笑顔で駆け寄ってくる。
「ガウッ!」
ノワールも満足そうに尾を振り、私の足元に身体をすり寄せてきた。
「オリカ様、お見事でした。構造の変形に伴う魔力循環の再構築……まさしく教導を越えた、あなた自身の勝利です」
エリアス先生が静かに教本を閉じ、眼鏡の奥の瞳を温かく細めて深々と頭を下げる。
「……まったく、冷や冷やさせやがって」
お兄様が歩み寄ると、私の頭を乱暴かつ愛おしそうにワシャワシャと撫でまわした。
「だが……自慢の妹だ。よく頑張ったな、オリカ」
「お兄様、髪がぐちゃぐちゃになります……! でも、ふふっ……ありがとうございます!」
胸の奥から湧き上がる温かい温もり。
前世の病室でずっと一人、小さく折りたたんでいた私の世界は、今こんなにも広がり、愛おしい人たちで満ちあふれている。
自分の手元を見つめると、幾重にも折り重ねて役目を終えた一枚の魔導紙が、静かに光を失って手のひらに収まっていた。
傷つけるためでも、奪うためでもない。
大切な日常を守り、大好きな人たちと繋がるために紡いだ『折り紙魔法』。
「さあ、地上へ帰りましょう。みんなで約束した、あのカフェのタルトを食べに!」
私が笑顔で振り返ると、大切な仲間たちが最高の一声で頷いてくれた。
白銀の光が差し込む地上へと続く階段を、私たちは寄り添いながら、ゆっくりと歩みを進めていった。
(完)




