第190話:漆黒の聖獣と、寄り添う心(ノワールの決意)
お兄様と別れ、ようやく自分の部屋へと戻ってきた。
月明かりだけが静かに差し込む部屋で、ベッドに腰を下ろすと、一気に肩の力が抜けるのを感じた。
「ふぅ……」
小さく息を吐いたその時、足元からトコトコと足音が近づいてきた。
漆黒の毛並みを月光に濡らした聖獣――ノワールだ。
「ノワール、まだ起きてたの?」
私が声をかけると、ノワールは返事の代わりに「ガルゥ……」と低い声を漏らし、しなやかな跳躍でベッドの上に飛び乗ってきた。
そして、私の膝の上にコロンと丸くなり、温かい頭を私の手にグイグイと押し付けてくる。
「あはは、くすぐったいよ」
その毛並みを優しく撫でてあげると、ノワールは満足そうに喉を鳴らし、じっと私の目を覗き込んできた。
その深い漆黒の瞳には、言葉以上の確かな意志が宿っている。
(大丈夫、私一人じゃないんだよね……)
聖獣として生まれ、私と契約を結んでくれたノワール。
これまでも、私が危機に陥るたびに真っ先に駆けつけ、鋭い爪と頼もしい身体で私を守り続けてくれた。
ノワールは私の手元にある魔導紙へと視線を向けると、鼻先でそっと突いた。
まるで「お前の作る紙の力を信じている」と語りかけているかのようだ。
「ガウッ!」
私の手をも一度力強く舐めると、ノワールは私の前で立ち上がり、小さな胸を誇らしげに大きく張ってみせた。
『お前が折り紙で世界を包むなら、俺はその中で一番鋭い牙となって、襲い来る闇を全て噛み砕いてやる』
言葉にはならなくても、魂の繋がりを通じてノワールの揺るぎない覚悟がひしひしと伝わってくる。
「ありがとう、ノワール。頼りにしているよ」
私はノワールのあたたかい体をぎゅっと抱きしめた。
ライアン君、エレナさん、エリアス先生、お兄様、そしてノワール。
みんなの決意と想いを胸に込め、私は魔導紙の束を強く握りしめた。
準備は全て整った。
大切な仲間たちと共に、明日、私たちは運命の地下大空洞へと挑む。




