第186話:託された背中と、不滅の盾(ライアンの決意)
地下大空洞へと続く重厚な鉄門の前。
夜風が不穏な静けさを運んでくる中、ライアン君は鞘から抜いた大剣の身を丁寧に布で磨いていた。
金属の澄んだ音が、静かな地下廊下に細く響く。
「ライアン君……」
私が声をかけると、彼はハッと顔を上げ、いつもの眩しいような笑みを浮かべた。
「なんだオリカ、眠れないのか? 明日は大一番なんだから、しっかり休んでおかないとだぞ」
「うん、でも……ライアン君がここにいるのが見えて」
私は彼の隣に歩み寄り、胸元に視線を落とした。
制服のポケットからは、先日渡した緑色の『折り紙の亀』の頭がちょこんと覗いている。
「ライアン君、私……すごく心強いよ。でも、明日はきっと今までで一番激しい戦いになると思うから……無理だけはしないでね」
私の言葉に、ライアン君は少しだけ驚いたように目を丸くし、それから大剣を勢いよく背中に背負い直した。
「無理なんてしないさ。……いや、無理をしてでも君を守るのが、俺の役目だ」
そう言った彼の表情は、普段の陽気なクラスメイトのそれではなく、一人の真摯な剣士の顔だった。
「俺さ、最初オリカに会ったとき、びっくりしたんだ。あんなにちっちゃくて華奢なのに、誰よりも頑丈で、誰よりも優しい結界を張るんだから」
彼はポケットの『折り紙の亀』にそっと指先で触れ、愛おしそうに目を細めた。
「この亀をもらったとき、確信したんだ。オリカの魔法は、ただの防御術なんかじゃない。俺たちを傷つけさせないための『優しさ』そのものだって。だからさ……今度は俺の番だ」
ライアン君は私の正面に立ち、力強く自分の胸を叩いた。
「オリカがみんなのために完璧な結界を張れるように、俺が一番前で敵の攻撃を全部弾き返してみせる。君の背中は、俺が命がけで守るからさ!」
「ライアン君……っ」
「だから安心して、一番後ろでドーンと構えててくれよな! 俺たちの最高の結界術士さん!」
悪戯っぽく笑いながら親指を立てるライアン君の姿に、私は不安が吹き飛んでいくのを感じていた。
私を信じ、背中を任せてくれる前衛の存在――それが、私にどれほどの勇気を与えてくれるか。
私は強く頷き、感謝を込めて微笑み返した。




