第182話:古き影の痕跡と、解き明かされる謎
「それじゃあ、探知の紙蝶を辿って、旧校舎の中を調べてみましょう」
私は二人に頷き、旧校舎へと続く重い扉に手をかけた。
キー……と甲高い音を立てて開いた扉の先は、埃っぽさと深い静寂に包まれていた。
かつて使われていた講義室や実験室が並ぶ廊下を、私の放った『探知の紙蝶』がゆらゆらと赤く光りながら進んでいく。
「気をつけてな。ここは普段、誰も立ち入らない場所だ」
ライアン君が鞘から少しだけ剣を抜き、慎重に周囲を警戒する。エレナさんも杖の先に小さな灯りを灯し、私たちの足元を照らした。
「ガウッ……(う〜っ)」
ノワールが低い声を漏らし、鼻をピクピクと動かしている。
どうやら、動物特有の鋭い嗅覚と聖獣としての魔力感知で、不快な匂いを捉えているようだ。
紙蝶が足を止めたのは、突き当たりにある古い魔導資料室の前だった。
「ここ……?」
固く閉ざされていたはずの扉は、わずかに隙間が開き、そこからねっとりとした冷たい魔力が漏れ出していた。
ライアン君が慎重に扉を押し開けると――。
「これは……何だ……!?」
部屋の中央にある古い魔導陣の跡を中心に、黒い液体のような魔力の痕跡が、まるで蜘蛛の巣のように床や壁へ広がっていた。
「学園の防衛結界の『縫い目』を狙って、外部から強制的に接続された魔導回路……!? こんな高度で異質な技術、今の学園の授業でも習わないわ……!」
エレナさんが息を呑む。
私は足元に広がる黒い痕跡にそっと近づき、魔導紙をかざして魔力の波形を分析した。
(この異質な魔力の質……どこかで見たことがあるような……)
「オリカ様、それ以上近づいては危険です」
静かな、けれど威厳のある声とともに、暗がりからエリアス先生が姿を現した。
その手には既に展開された防御陣の魔導書が握られている。
「エリアス先生!? どうしてここに……」
「アレクシス様からオリカ様が旧校舎へ向かわれたと連絡を受けましてね。……ふむ、やはり私の懸念していた通りでしたか」
エリアス先生は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、床の黒い痕跡を見つめた。
「これは古代の魔導兵器を起動させるための『呼び水』……。オリカ様、奴らの狙いは学園そのものではなく、あなたの持つ『絶対耐久の空間拡張構造』――つまり、折り紙魔法の真理のようです」
「私の……折り紙魔法……!?」
先生の言葉に、私は息をのんだ。
学園を揺るがす不穏な影は、想像以上に私自身の根幹へと迫っていた。




