第180話:静かな侵入者と、決意の放課後
昼休みのカフェテリアはいつも通りの賑やかさを見せていたが、私の胸の中には重い違和感が残っていた。
「オリカちゃん、さっきから全然箸が進んでないわよ? 大丈夫?」
エレナさんが心配そうにスープの皿を差し出してくれる。ライアン君もパンを口に含んだまま首を傾げていた。
「あ……ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて」
「朝の過保護な警備のせいか? まあ、生徒会長も公爵家もオリカのことを心配しすぎな気はするけどな」
「ライアン、失礼よ。でも……オリカちゃん、何か気になることでもあったの?」
二人の優しい視線に、私は少し迷ってから小さく頷いた。
「……朝、校舎へ向かう通路で、変な魔力の気配を感じたの。すごく冷たくて、不気味な気配……」
私の言葉に、ライアン君とエレナさんの表情が引き締まる。
「オリカがそう言うなら間違いないな。最近の魔力変動の件もあるし……」
「ええ。もし学園の中に誰かが潜み込んでいるとしたら、ほっておけないわ」
二人の言葉に心が温かくなる。
以前の私なら、一人で抱え込んで怯えていたかもしれない。けれど今はこの頼もしい仲間たちが側にいてくれる。
放課後、私たちはノワールを連れて、朝に気配を感じた連絡通路へと向かった。
夕闇が差し込む廊下は人影もなく、静まり返っている。
私はポケットから数枚の魔導紙を取り出し、素早く小さな蝶の形に折り上げた。
「飛んで……『探知の紙蝶』」
指先から放たれた紙の蝶が、微弱な魔力を帯びて廊下の空気を舞う。
折り紙に込めた魔力が、空間に残されたかすかな残留魔力を感知して、かすかに赤く光を放った。
「やっぱり……! ほんの少しだけど、学園の防衛結界をすり抜けた『外部の魔力』の痕跡がある……!」
「マジかよ……学園の結界を破らずに侵入するなんて、どんな奴だ……!?」
ライアン君が腰の剣の柄に手をかける。
「ガウッ……!」
足元でノワールが鋭い唸り声をあげ、廊下の奥――旧校舎へと続く扉を見つめた。
忍び寄る影は、確実に学園の内部へと侵入している。
大切な仲間と、この穏やかな日常を守るため、私は魔導紙を強く握りしめた。




