第179話:過保護な警護体制と、忍び寄る影
「――というわけで、今日からオリカの寮生活および学園内での移動には、特別な警護体制をしくことにした!」
翌朝、学園寮の談話室で朝食をとっていた私は、お兄様の力強い宣言にスープを吹き出しそうになった。
「……えっ!? と、特別警護ですか……!?」
朝一番で女子寮の談話室にやってきたお兄様(生徒会長の権限をフル活用したらしい)の後ろには、黒いスーツに身を包んだ公爵家精鋭の影の騎士たちがズラリと控えている。そして私のすぐ足元には、なぜか胸に『特別警護隊長』と書かれた小さなリボンを巻いたノワールが、誇らしげに胸を張っていた。
「お兄様、ここ学園の寮ですよ!? それにノワールも一緒にいてくれますし……!」
「ダメだ! 最近、学園都市の郊外で不審な魔力変動が観測されている。万が一にも、寮から校舎への移動中に我が愛しい妹の髪の毛一本傷つけられるようなことがあってはならない!」
熱弁を振るうお兄様の横で、エリアス先生が眼鏡の奥の目を光らせながら、静かにメモ帳を閉じた。
「オリカ様、アレクシス様の仰る通りです。念には念を入れておくに越したことはありません。寮の敷地周りおよび校舎への連絡通路には、既に影の精鋭を配置済みです」
「先生まで……!?」
過保護すぎるお兄様と先生の対応に頭を抱えつつも、私は校舎へと向かった。
案の定、精鋭の気配に厳重にガードされながら寮を出た私は、中庭を歩くだけで他の生徒たちから「さすが公爵家の令嬢……」「寮の警備まで完璧ね……」と注目の的になってしまった。
「あはは……みんな、おはよう……」
「オリカちゃん、朝からすごい厳戒態勢ね……! 何かあったの?」
心配そうに駆け寄ってきたエレナさんに、私は苦笑いを返すことしかできない。
しかし――校舎へ続く連絡通路を歩いている最中、私はふと首筋に冷たい違和感を覚えた。
(……え……?)
一瞬だけ、視界の端が黒く歪んだような気がしたのだ。
生徒たちの賑やかな声とは切り離されたような、ねっとりとまとわりつく不気味な魔力。
「ガウッ……!」
足元にいたノワールが低く唸り声をあげ、私のスカートの裾を引っ張って警戒態勢をとる。
「ノワール……? 今の、感じた……?」
ほんの一瞬で消え去ったその不穏な気配。
過保護な警護網の目と鼻の先で、何者かが確実に学園内を覗き込んでいる――そう確信した瞬間だった。




