第176話:演習のあとの、にぎやかな休日
無事に定期魔導演習を終えた、最初の週末。
「今日は演習の打ち上げも兼ねて、街でお買い物よ!」
エレナさんの弾んだ声とともに、私はエレナさん、ライアン君の三人で学園街の賑やかな通りを歩いていた。
演習での大活躍はあっという間に学園中に広まり、すれ違う生徒たちから「あいつがSクラスの結界術士……」「かっこよかったな」と視線を感じるけれど、今日ばかりは難しい魔法のことは忘れて羽を伸ばすつもりだ。
「オリカちゃん、見て! あのカフェの新作スイーツ、すごく美味しそう!」
「わあ、本当ですね! 綺麗なベリーのタルト……!」
可愛らしいカフェのテラス席に案内され、甘い香りに包まれる。
前世では病室のベッドの上で見るだけだった憧れのカフェスイーツに、私の胸は高鳴っていた。
「オリカ、演習では本当にお疲れ様。君の『千紙陣』には驚かされたよ」
「ふふ、ライアン君も凄く格好いい剣技だったよ。あの合体攻撃、息がぴったりだったもの!」
「みんなの力があったからこそですよ。私一人じゃ、あんなに綺麗に守り切れませんでした」
運ばれてきたタルトを一口頬張ると、甘酸っぱいベリーの風味が口いっぱいに広がる。
「ん〜っ……! すごくおいしいです……!」
私が思わず頬をゆるめると、エレナさんとライアン君も嬉しそうに笑ってくれた。
……と、そんな平和で幸せなひとときの中。
カフェの向かいにある建物の陰から、何やら熱い視線と低く唸る気配を感じる。
(あ……あの人だかりは……)
通りの角で、変装用の眼鏡(全然隠せていない)をかけたお兄様が、物陰からじーっとこちらを観察していた。
そしてその足元には、気配を殺して地面に伏せているノワール。
「おい、あの美しい男と黒狼……ずっとSクラスの三人を見てないか?」
「アレクシス様……? なんであんなところで物陰から覗いて……」
街の人たちがひそひそと囁き合っている。
(お兄様……ノワールまで一緒になって尾行してくるなんて……!)
過保護すぎる二人の視線に少し恥ずかしくなりながらも、私は二人に気づかないふりをして、フォークで小さく切ったタルトの切れ端をそっとナプキンに包んだ。
後で、あそこにいる二人にもお土産として渡してあげよう。
賑やかな仲間と、相変わらず過保護な家族(と聖獣)。
私の休日は、あたたかくて少しお可笑しな時間に包まれていた。




