第174話:圧倒的な防衛戦と、影の猛獣
演習開始から三十分が経過した。
本来であれば、各クラスがゴーレムの執拗な怒涛の攻撃に押され、陣地の撤退や防衛線の縮小を余儀なくされる時間帯だ。
しかし、我がSクラスの拠点は――驚くほど平穏だった。
ドスッ! ドンッ!
ゴーレムたちが次々と拳を打ちつけ、岩石の太い腕を叩きつけてくる。
けれど、高台をぐるりと取り囲む『千紙陣』は、淡い光を帯びたまま微動だにしない。
「本当に……一歩も踏み込ませないなんて……」
エレナさんが感心したように息を吐きながら、魔法の詠唱を続ける。
「ああ、普通の障壁なら魔力の消耗で維持すら危ういのに、オリカの結界はパーツ同士で魔力を巡回させているから、衝撃を吸収するたびに強固になっている気がするぞ」
ライアン君が汗をぬぐいながら、ゴーレムの隙を突いて剣風を放つ。
私自身、前回の単体防御のときよりも格段に魔力消費が抑えられているのを感じていた。
『折り目のジョイントで魔力を巡回させる』というエリアス先生のアドバイスのおかげだ。
(これなら、制限時間まで十分に耐え切れる……!)
私たちが順調に防衛戦を進める中、ふと演習場の端にある森の影に視線を向けた。
そこには、気配を完全に消しているつもりなのか、木々の隙間からじっとこちらを見守る漆黒の影――ノワールがいた。
「ガウ……(よしよし、順調だな)」と言いたげに満足そうに頷いている。
その時だった。
一体の大型ゴーレムが、私たちが放った反撃の衝撃波に弾き飛ばされ、ノワールの潜む森の茂みへと猛スピードで突っ込んで行った。
「あ……ノワール、危ない!」
私が思わず声をあげかけた、その瞬間。
ドガァンッ!!
茂みの中から突如として放たれた漆黒の衝撃波が、突っ込んできた大型ゴーレムを影の一撃で粉々に打ち砕いた。
「……え?」
一瞬で砕け散ったゴーレムの破片の向こうで、ノワールが「ふんっ」と鼻を鳴らし、何事もなかったかのように再び毛並みを整えている。
監視台の教官たちが目を丸くした。
「な、なんだ今の不自然な衝撃波は……!? 森の中に凄まじい高位の魔物が潜んでいるのか!?」
「い、いえ……教官、あれはエヴェレット公爵家から派遣された『ただの影の護衛』だそうです……」
「ただの護衛であの威力か!?」
過保護な実家の影の護衛(聖獣)による圧倒的な一撃に、演習場は別の意味でどよめきに包まれるのだった。




