第172話:新技の開発と、小さな陣地
「……うん、やっぱりこれだと魔力の流れが途切れちゃうな」
自分の部屋の机に向かい、私は小さく息をついた。
机の上に広がっているのは、魔導紙で折った幾何学模様のユニットパーツ――小さな箱や面を組み合わせる「ユニット折り紙」の試作品だ。
来月に迫った学園の「定期魔導演習」。
今回の課題は、押し寄せる魔導人形の群れから陣地を守り抜く模擬防衛戦だ。
(絶対耐久の折り鶴は、点での防御には完璧だけど……クラスみんなを守る広範囲の防衛となると、複数のパーツを噛み合わせて『面』の防衛網を作らないとダメね)
前世の病室で一人静かに紙を折っていた頃、よく作っていたパーツを何十個も組み合わせて球体や面を作る立体パズル。
あの構造を応用して、複数の魔導紙同士を噛み合わせ、広大な防壁を展開できないかと考えたのだ。
「ガウッ?」
足元で丸くなっていたノワールが、心配そうに鼻先を私の膝に乗せてくる。
「ふふ、大丈夫だよノワール。ちょっと行き詰まっちゃっただけ」
ノワールの頭を撫でながら苦笑いしていると、部屋の窓がトン、トンと叩かれた。
窓の外を見ると、一羽の小さな使い魔の鳥が止まっている。
脚に結びつけられた筒から手紙を取り出すと、そこには懐かしいエリアス先生の綺麗な文字が踊っていた。
『オリカ様へ。
実家での騒ぎ(主に公爵夫妻の過保護な爆発)は私が何とか抑え込んでおりますのでご安心ください。
さて、そろそろ学園では定期演習の準備が始まる頃でしょうか。
単体の点による絶対耐久から、複数を連動させた面による魔力循環へ――。
もし新しい試みに挑戦されるのでしたら、「紙の折り目とジョイント」そのものを魔力の流路(回路)として捉え直してみてください。
健闘をお祈りしております。』
「……! ジョイント部分を魔力回路に……!」
エリアス先生からの手紙を読み、目から鱗が落ちる思いだった。
これまでは折り上げたパーツ単体の強度ばかり考えていたけれど、パーツ同士の差し込み口(折り目)を通して魔力を循環させれば、多面体の巨大な結界陣として機能させることができるはずだ。
「ありがとう、エリアス先生……!」
私はすぐさま新しい魔導紙を取り出し、指先を素早く動かし始めた。
1枚、2枚と折り上げられた幾何学パーツが、互いの折り目を噛み合わせながら、美しく立体的な陣地基盤へと組み上がっていく。
「これで……魔力を流してみたら……!」
カッと淡い光が放たれ、パーツから展開された半透明の幾何学障壁が私とノワールを包み込んだ。
何重もの魔力線が規則正しく格子を描き、圧倒的な密度の防壁を作り出している。
「できた……! 『折り紙結界・千紙陣』の基礎……!」
「ガウガウッ!」
ノワールも嬉しそうに尻尾を振って鳴き声をあげる。
パーツ同士の噛み合いが生み出す絶対の『面』。
クラスのみんなを守るための新しい力。
私の折り紙魔法は、演習に向けて確かな手応えを掴み始めていた。




