第170話:隠しきれない威光と、二大過保護の激突
ノワールが学園の影の護衛として加わってから数日。
「陰からお前を見守らせる」というお父様の手紙の通り、
ノワールは気配を消して私を尾行してくれている……はずだった。
けれど――。
「ねえ、見て……あの凄まじい気迫を纏った黒狼様……」
「校舎の屋上から、じっとSクラスの教室を見つめておられるわ……」
「まるで伝説の聖獣みたい……格好よすぎる……!」
隠れるどころか、圧倒的な存在感と気品あふれる立ち姿で、
すでに学園内の生徒や教師たちの注目の的になっていた。
(ノワール……全然隠れられてないよ……!)
窓の外の屋上で、誇らしげに風に毛並みをなびかせているノワールを見上げ、
私は内心で頭を抱えていた。
そして、放課後。
中庭のベンチでノワールにおやつをあげながら休憩していると、
ドカドカと激しい足音が近づいてきた。
「オリカーッ!! 影の護衛だか何だか知らんが、
妹の隣という一番の特等席を動物なんぞに譲る気はないぞ!!」
両手に手作りの高級スイーツを抱えたお兄様が、
息を荒げて駆けつけてきたのだ。
「ガウッ……(誰が動物だ)」
ノワールは低く鼻を鳴らすと、私を守るように前へ出て、
お兄様をじろりと睨みつける。
「ほう……私に牙を剥く気か? 聖獣ノワールよ。
オリカの第一の騎士はこの私、アレクシス・エヴェレットだ!」
「ガルル……(甘いな、我こそが幼少期からの護衛だ)」
火花を散らすお兄様とノワール。
お互いに譲れない「オリカ護衛隊」としてのプライドが、
中庭に謎の緊張感を生み出している。
周囲で見守っていたエレナさんやクラスメイトたちは、
「あのアレクシス様が狼と本気で張り合っている……」
「でも、あのお姿もなんだか微笑ましいわね」
と、生暖かい眼差しを向けていた。
「もう……! お兄様もノワールも、喧嘩しないでください!」
私が二人の間に割り込んで困ったように言うと、
二人はピタリと動きを止め、同時にしゅん……と肩を落とした。
「す、すまないオリカ……困らせるつもりは……」
「くぅ〜ん……」
「ふふ、仲良くしてくれるなら、二人(?)にこのお菓子を分けてあげますね」
私が笑ってケーキを小さく取り分けると、
お兄様とノワールは顔を見合わせ、
どこか誇らしげに、同時にそれを受け取った。
過保護な家族とお騒がせな聖獣に囲まれて、
私の学園生活はますます賑やかさを増していくのだった。




