第13話:お兄様と、秘密のサクサクおやつ
第13話:お兄様と、秘密のサクサクおやつ
「オリカ、ただいま。父上の話が長くて……って、
おや? なんだかすごく良い匂いがするね?」
戻ってきたお兄様が、
クンクンと鼻を鳴らしながら
ベッドの方へ歩いてくる。
(やばい! チートクッキーを見つけられる!)
私は大慌てで、残りのクッキーを
マットレスの裏の紙の小箱へ放り込み、
何事もなかったかのように
口をもぐもぐさせながらお兄様を見上げた。
「あーうー、ばぶっ?」
私は全力で「何も知りません」という
無垢な赤ちゃんのフリをする。
お兄様はベッドの横にしゃがみ込むと、
私の口元や、お皿の上に残った
クッキーのくずをじっと見つめた。
「お留守番用のおやつを食べたんだね。
でも、母上が用意したクッキーは、
こんなに香ばしくて濃厚な
バターの匂いはしなかったはずだけど……?」
(うぐっ……! さすがお兄様、鼻が良すぎる!)
エリート魔導師の観察力は伊達じゃない。
私は内心冷や汗をだらだらと流しながら、
必死に「えへへー」と笑ってごまかした。
するとお兄様は、
優しく私のほっぺをつついて、
クスッと悪戯っぽく微笑んだ。
「……なるほど。
また、世界(精霊)の気まぐれが
起きたんだね?」
(あ、その設定を使ってくれるのね!?)
前回の家庭教師セバスチャンの時に
お兄様がでっち上げた「精霊の愛されチート」の言い訳。
お兄様はそれを、私との間の
『合言葉』のように使してくれたのだ。
「オリカが美味しく食べられるようにって、
世界が味を変えてくれたんだ。
……うん、そういうことにしておこう」
お兄様はすべてを察した上で、
私の秘密を守るために
ポンと私の頭を撫でてくれた。
「それにしても、本当に良い匂いだ。
お兄様にも、その『世界の気まぐれおやつ』、
一口分けてもらえないかな?」
(えっ、お兄様も食べたいの!?
ど、どうしよう……。
でも、お兄様はいつもお仕事や勉強で
すごく疲れてそうだし……)
このクッキーについている効果は【疲労完全回復】。
いつも私のために無理をしてくれている
お兄様にこそ、必要な効果かもしれない。
私はちょっと考えてから、
お兄様が「よし、それじゃあ僕がお茶を淹れてあげるね」と
お茶のセットの方へ後ろを向いた隙に、
マットレスの裏から小箱を素早く引っ張り出した。
そして、中からクッキーを一枚だけ取り出し、
振り返ったお兄様の口元へ「あーん」と差し出したのだ。
「……! オリカ、僕にくれるの?」
お兄様はパッと顔を輝かせると、
嬉しそうに私の手からクッキーを受け取り、
サクッと口に入れた。
その瞬間、お兄様の目が
見開かれた。
「……っ!? これは……!」
(わ、美味しい!? それとも効果が出すぎちゃった!?)
お兄様は自分の両手を見つめ、
驚いたように何度も握ったり開いたりしている。
さっきまで少し目の下に溜まっていた
寝不足のクマが、一瞬で消え去っていた。
「信じられない……。
父上の手伝いで重くなっていた頭が、
一瞬で完全にスッキリした。
それどころか、魔力の循環まで
完璧に整っている……。
ただの美味しいおやつじゃない、これ……」
お兄様は驚愕しながらも、
あまりの美味しさと効果の凄さに
幸せそうなため息をついた。
「ありがとう、オリカ。
こんなにすごいものをくれるなんて、
やっぱり君は、僕だけの最高の天使だね」
お兄様は私を優しく抱き上げ、
幸せそうに頬ずりをしてくれた。
おやつカスタムがバレた時は焦ったけれど、
大好きな強くて頼れるお兄様の
疲れを癒やしてあげられて、
私はお兄様の腕の中で、
今度は本当に嬉しくて「あーうー!」と
笑うのだった。




