第144話:次なるステージへの踏み出し
ヴァルデック伯爵邸からの帰り道、馬車の窓から差し込む夕陽を見つめながら、私は小さなため息とともに深く腰掛けた。
「これで……エリアス先生が選んでくださった三つのお茶会が、すべて終わりましたのね」
「ええ。クロエ様、クラリッサ様、そしてヘレナ様……。伝統、革新、そして武威を司る三つの家門との強固な繋がりが完成いたしました。いまや社交界において、グランベル家がオリカ様に手を出せる余地はどこにもございません」
隣に座るエリアス先生が、満足そうに眼鏡の縁を指で押し上げる。足元でノワールも「くぅ」と満足げに鳴いて、私の膝に顔を乗せてきた。
「先生のおかげで、素敵な友人たちと出会うことができました。本当にありがとうございます」
「お礼には及びません。すべてはオリカ様ご自身の気品と、誠実な立ち振る舞いが手繰り寄せた結果でございます。……さて、これで社交界における『足場固め』は完璧に整いました」
エリアス先生の表情が、いつもの家庭教師としての凛とした知的で鋭いものへと戻る。
「これからは、いよいよ『将来』を見据えた新たな準備に入るといたしましょう」
「将来……学園へ入学するための準備、ですね?」
「左様です。王立学園への入学までに、オリカ様独自の強み……特に魔法の実技や知識における決定的な『武器』を磨いておく必要があります。既存の魔法体系に囚われない、オリカ様だけの特別な術式を形にしていくのです」
学園という新しい舞台の言葉を聞いて、胸が小さく高鳴る。
「私の……特別な術式……」
「ええ。オリカ様が密かに温めておられた、あの『紙を折り込んで構築する魔道具』――折り紙を用いた魔道具制作の本格的な研究に入りましょう」
ただの社交界の令嬢として守られるだけでなく、一人の魔法使いとして己の力を高める時が来たのだ。私はノワールの柔らかい毛並みをしっかりと撫でながら、強く、力強く頷いた。
「はい、エリアス先生! 私、一生懸命がんばりますわ!」
社交の嵐を乗り越えた私は、次なる成長のステップ――折り紙を用いた独自の魔道具作りへと、一歩を踏み出すのだった。




