第142話:ヴァルデック邸の庭園と、誇り高き対面
ヴァルデック伯爵邸は、他の貴族邸のような過剰な装飾はなく、質実剛健という言葉がふさわしい重厚で整然とした佇まいを見せていた。
案内された広大な庭園のテラスで待っていたのは、つややかな黒髪を一つに束ね、颯爽とした仕立てのドレスを身に纏った少女――ヘレナ・フォン・ヴァルデック伯爵令嬢だった。
「初めまして、オリカ・フォン・エヴェレット様。本日はお越しいただき感謝いたします」
「初めまして、ヘレナ様。お招きいただき光栄ですわ」
私が完璧なカテシーを捧げると、ヘレナ様のキリッとした凛々しい瞳に、確かな敬意の色が浮かんだ。
「素晴らしいお作法です。昨夜の夜会でのご決断、そして毅然としたお姿……噂通り、真の誇りをお持ちの令嬢とお見受けしました」
「恐縮ですわ。私としては、公爵家の娘として当たり前の行動をとったまでにすぎませんの」
私が微笑むと、ヘレナ様の視線が私の足元へと滑り落ちた。そこには、静かに寄り添うノワールがいる。
「……そして、そちらが聖獣とも称されるフェンリルのノワール様ですね。なんと気高く、洗練されたお姿……! 我が家の軍馬や軍犬たちとは打って変わって、神聖な気品すら感じます」
「ふふ、ノワール、褒めていただけてよかったわね」
私が頭を撫でると、ノワールはヘレナ様に向かって軽く一礼するように頭を下げた。ヘレナ様はその賢さに目を見張り、実に楽しそうに笑みをこぼした。
「素晴らしい相棒をお持ちですね。……グランベル家のような小賢しい悪知恵に頼る者たちには、この真の強さと気品は決して理解できないでしょう」
ヘレナ様のサッパリとした、けれど力強い言葉に、私はこのお茶会もきっと素晴らしいものになると確信するのだった。




