第141話:三通目の招待状と、武官の家系
クラリッサ様とのサロンを終えた翌日、エリアス先生は最後となる三通目の招待状を私に提示してくださった。
「オリカ様、最後にお会いすべきお相手は……こちらのヘレナ・フォン・ヴァルデック伯爵令嬢でございます」
「ヴァルデック伯爵家……確か、代々王国軍の要職を務める武官の名門でしたわね」
私が尋ねると、エリアス先生は静かに頷いた。
「左様です。ヴァルデック伯爵家は派閥争いから一線を画し、純粋に王家への忠誠と武功で地位を築いてきた硬派な家門です。ヘレナ様ご自身も過度な飾りのない実直な人柄で、他家の顔色をうかがうような真似を嫌われます」
「伝統派のクロエ様、革新派のクラリッサ様……そして、中立かつ実力派のヘレナ様ですね。エリアス先生の選書ならぬ『選家』の見事さには感服いたしますわ」
ふふっと微笑む私に、エリアス先生も眼鏡の奥の目を和ませた。
「ヴァルデック家のような質実剛健な家門と懇意になることは、グランベル家のような権謀術数を好む者たちに対する強力な牽制となります。また、ヘレナ様はオリカ様が連れているノワール様にも強い関心をお持ちのようです」
「ノワールに……? それは楽しみですわね」
私の足元でまどろんでいたノワールが、名前を呼ばれて「くぅ」と可愛らしく鳴いた。
「伝統、革新、そして武威。この三つの足が揃えば、社交界におけるオリカ様の地盤は完璧なものとなります。さあ、さっそく準備に取りかかりましょう」
最後のピースを組み上げるため、私たちはヴァルデック伯爵邸への訪問を決めたのだった。




