第139話:公爵閣下の笑意と、揺らぐ包囲網
ガルニエ男爵邸からの帰路を終え、私はエリアス先生とともに再びお父様の執務室へと向かった。
クラリッサ様との対話や、新興貴族の間でグランベル家に対する反発と我が家への好意的な視線が広がっている旨を伝えると、お父様は満足そうに口元を緩めた。
「ふむ……新興のガルニエ男爵家か。当主の男爵は目先にとらわれぬ聡明な男だが、その娘もなかなか見所があるようだな」
「ええ、お父様。クラリッサ様はとても情熱的で、ご自身の考えをしっかりとお持ちの素晴らしい方でした」
「素晴らしいな、オリカ。伝統を重んじるローゼンベルグ家のみならず、新たな風を追うガルニエ家とも良き絆を結べたことは、社交界におけるお前の立ち位置をより確固たるものにする」
お父様は背もたれに深く腰掛け、デスクの上の書類に目を通しながら優しく微笑んだ。
「グランベル侯爵は、弱小貴族や新興貴族を脅せば当家を孤立させられると考えたのだろうが……かえって自らの見識の狭さを露呈させる結果となったな。焦りから生じた強権は、ただ人を遠ざけるのみだ」
「はい。エリアス先生も、私自身が誇り高くあることが何よりの対抗策とおっしゃってくださいました」
私が隣に立つ先生を見上げると、エリアス先生は眼鏡の縁をそっと押し上げ、静かに一礼した。
「オリカ様の高潔なお振る舞いが、自然と周囲を惹きつけております。グランベル家の目論見はすでに瓦解しつつあると言って差し支えございません」
「うむ。だが油断は禁物だ。追い詰められた獣ほど、何をするかわからんからな」
お父様の鋭い瞳が僅かに光る。
「オリカ、次なる社交の場でも変わらずお前らしくありなさい。我がエヴェレットの盾と刃は、常に共にある」
「はい、お父様!」
力強い言葉に勇気をもらいながら、私は背筋をピンと伸ばすのだった。




