第137話:語られる噂と、新興貴族の視点
クラリッサ様が丁寧に淹れてくださったお茶は、華やかな甘い香りとすっきりとした後味が心地よく、口に含むと心がふわりと解けていくようだった。
「本当に素晴らしいお味ですわ、クラリッサ様。お茶の魅力を引き出すためのこだわりが、一口ごとに伝わってまいります」
「ふふ、オリカ様にそうおっしゃっていただけるなんて、勇気を出してお淹れした甲斐がありましたわ!」
クラリッサ様は嬉しそうに頬を緩め、自身のカップを手に取りながら楽しげに語り始めた。最新のドレスの意匠や、北方の珍しい織物の話など、流行に敏感な彼女ならではの視点は実に新鮮で、会話は尽きることがない。
やがて、クラリッサ様は少し声を落とし、どこか気遣うような眼差しを私に向けた。
「……ところでオリカ様。昨夜の夜会以降、グランベル伯爵家が少し不穏な動きを見せていると耳にいたしましたの」
「グランベル家が……ですか?」
「ええ。我が家のような新興貴族や、中立を保とうとしている小家門に対して、グランベル家の影響下に入るよう遠回しな圧力をかけているらしくて……。我が家にも打診のようなものが届いていたのですけれど、父は『静観する』と取り合いませんでしたの」
新興貴族のネットワークを通じても、やはりグランベル家の焦りや圧力が伝わっているのだと分かり、私は密かに身を引き締めた。
「ですが、オリカ様がグランベル様の不躾な態度を毅然と退けられたこと、新興の貴族たちの間では『素晴らしい誇り高さだ』と、むしろ称賛の声が上がっておりますのよ」
「……称賛、ですか?」
「はい! 古いしきたりや権力を振りかざす方に屈しないお姿に、勇気をもらった者は少なくありません」
クラリッサ様の真っ直ぐな言葉に、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。グランベル家の嫌がらせに屈するどころか、自分の立ち振る舞いが新たな繋がりや支持を生んでいる――エリアス先生の言っていた「ご自身の立ち振る舞いに誇りを持って」という言葉の意味が、少しずつ分かってきた気がした。




