第136話:新しい嗜みと、お茶の淹れ方
テーブルに運ばれてきたのは、見慣れた銀製のティーセットではなく、細やかなガラス工芸が施された珍しい茶器だった。
するとクラリッサ様は侍女を下がらせ、自ら手際よく茶葉を取り出し、湯を注ぎ始めたのだ。
(前世では自分でお茶を淹れるなんて当たり前だったけれど……貴族の社会で令嬢が自らお茶を淹れるのは珍しいわよね)
そんなことを内心で思いつつも、私は興味深くその様子を見つめた。
「クラリッサ様、ご自分でお茶をお入れになるのですか?」
尋ねる私に、クラリッサ様はフフッと嬉しそうに微笑んだ。
「ええ! 実は今、北方のサロンや一部の新しい貴族の間で、自分の手で最も良い状態で茶葉を開かせ、お客様をおもてなしするのが密かな流行りとなっていますの。もちろん、公爵家のオリカ様から見れば少し風変わりに見えるかもしれませんけれど……」
「いいえ、風変わりだなんて! ご自身で丁寧に淹れてくださるなんて……お茶に対するこだわりと、心づくしのおもてなしが伝わってきて、とても新鮮で素敵ですわ」
私の素直な感嘆に、クラリッサ様はぱっと顔を輝かせた。
「まあ……! そう言っていただけて光栄です! 伝統を重んじる古参の貴族の方々からは『令嬢らしくない』と眉をひそめられることも多くて……」
「お言葉ですがクラリッサ様」
静かに控えていたエリアス先生が、落ち着いた声で会話に加わった。
「作法や伝統を守ることも重要ですが、客人への心尽くしを第一とするその姿勢は、真の歓待の精神に叶うものです。当家(エヴェレット家)としても、決して非難されるべきものではないと考えます」
「エリアス先生……! なんてご理解のある家庭教師様なのでしょう!」
先生の言葉にクラリッサ様は感激したように胸を躍らせ、丁寧に淹れられた美しい琥珀色のお茶を、私の前へと差し出してくれるのだった。




