第131話:不穏な兆しと、先生の頼もしさ
「グランベル家が……圧力を?」
私が思わず問い返すと、クロエ様も不安そうに小さな手を胸の前でギュッと握りしめた。
「グランベル侯爵家は、社交界でも特にプライドが高いことで有名です……。昨夜、オリカ様に面目を潰されたと感じたレオナルド様のご父質が、腹いせに動き出したのかもしれません」
自分のせいで他の貴族家に迷惑がかかっているのかもしれない。
そう思うと胸が苦しくなり、私は思わず唇を噛み締めた。
「オリカ様、顔をお上げください」
すっと私の前に立ったエリアス先生の静かな声が、私の不安を遮るように響いた。
「昨夜のオリカ様のお振る舞いは、公爵令嬢として完璧なものでした。決してご自身を責める必要はありません。それに――グランベル家の動きなど、当家(エヴェレット公爵家)の想定の範囲内です」
「エリアス先生……」
「ええ。我が家門の力を誇示するまでもありません。無理な圧力をかければかけるほど、周りの貴族たちはグランベル家の器の小ささを知ることになります。クロエ様、貴重な情報をご共有いただき感謝いたします」
エリアス先生がクロエ様に向かってエレガントに一礼すると、クロエ様はほっと安堵の息をつき、その瞳に尊敬の色を深めた。
「流石はエヴェレット公爵家の家庭教師様……とてもお頼もしいですね。オリカ様、私にできることがあれば何でも言ってくださいね」
「ありがとう、クロエ様。……私、もっとしっかりしなきゃね」
足元でノワールが「ふんっ」と力強く鼻を鳴らし、私のドレスの裾にそっと頭を擦り寄せてくる。
グランベル家の陰謀という小さな暗雲は垂れ込めたものの、目の前の頼もしい先生と温かい友人の存在に、私の心は少しも揺らぐことはなかった。




