第130話:穏やかな午後の談笑と、見え隠れする影
最初のお茶会は、想像以上に和やかで楽しい時間に変わっていった。
「実は私、読書が趣味なのですが……最近は少し古い伝承や民話を集めた本にハマっているのです」
「民話ですか? とても面白そうですね」
「ええ! 例えば、この地に古くから伝わる『森の守り手』のお話や、姿を消した幻の鉱石の伝説など……あ、でも、こういうお話はお嫌いでしたでしょうか……?」
申し訳なさそうに上目遣いになるクロエ様に、私は深く首を振った。
「いいえ、私もそういったお話は大好きです! ね、エリアス先生?」
私が振り返ると、控えていたエリアス先生がすっと一歩前に出た。
「ええ。古い伝承には、時に歴史の事実に繋がる貴重な口伝が含まれております。クロエ様の選書眼は非常に素晴らしいものかと」
「まあ……! 先生にそう言っていただけると光栄です」
先生の自然で知的なフォローに、クロエ様は一層表情を輝かせる。
読書や学問に興味があるクロエ様にとって、知識が豊富で品格のあるエリアス先生の存在もまた、新鮮な驚きだったようだ。
しかし、お茶会が最も盛り上がっていたその時――。
ローゼンベルグ家の執事が静かに歩み寄ってきた。公爵家のお嬢様である私に直接不躾に話しかけるのを避け、まずは私の供の筆頭であるエリアス先生へと一礼し、小さく耳打ちをしたのだ。
話を聞いたエリアス先生の眼鏡の奥の瞳が、わずかに鋭さを増す。
「……オリカ様、クロエ様。少し耳に入れておくべき報が入りました」
エリアス先生が静かな声で私に歩み寄り、控えめに語りかける。
「昨夜の夜会以降、グランベル家側が何やら不穏な動きを見せているようです。我がエヴェレット家やオリカ様に好意的な小規模な貴族家へ、妙な圧力をかけ始めているとのこと」
静かだったお茶会の空気に、微かな緊張が走り抜けた。




