第124話:路地裏の急襲と、先生の真価
「気配は5……なるほど、裏口から忍び込んできましたか」
エリアス先生が静かな声で呟き、サッと私たちの前に身を乗り出す。
「えっ……!? だって、表には先生が連絡してくれた城の護衛たちが配置ついてるはずだぞ……!?」
カルロス殿下がハッとして顔を強張らせた。
表通りには護衛たちが待機しているはずなのに、それとは別に、路地裏の狭い裏口から殺気立った不穏な気配が近づいてきているのだ。
「表の護衛に気づかれぬよう、巧妙に裏手に回った小悪党のようですね。……カルロス殿下、私の後ろへ。オリカ様、ノワールのお側を離れませんように」
「はい!」
私が頷くと同時に、カフェの裏口の扉が『ドカン!』と荒々しく叩き開けられた。
入ってきたのは、顔を布で覆い、抜き身の短剣や鉄パイプを手にした見るからに質の悪い男たちだ。表の護衛の目を盗み、裏口から押し入ってきたらしい。
「おいおい、裏に回ってみれば、身なりの良さそうな坊ちゃんと嬢ちゃんがいるじゃねぇか……! 大人しく捕まってもらうぜ!」
店主のおじいさんが悲鳴を上げて物陰に隠れる。
男たちは表にいる厳重な警護に気づき、一儲けしようと裏口から力ずくで子供を拐いにきたようだ。
「失礼、店内で暴れられると店主殿が迷惑しますので」
エリアス先生が深々と溜め息をつきながら、片手でスッと眼鏡のブリッジを押し上げた。
その瞬間、先生の指先から淡い青銀色の魔法陣が幾重にも展開される。
「な、なんだこの圧は……!? ただの連れ添いじゃ――」
「【束縛の檻】」
先生が短く呟くと、男たちの足元から光の縄が爆発的に伸び、5人の男たちをあっという間にグルグル巻きにして天井へ吊るし上げた。
無詠唱に等しい速度と、無駄のない完璧な魔力制御。
「ひぐっ……!? う、動けねぇ……!」
「な、なんだこの野郎……!?」
「暴れないでいただけますか。これでも手加減をしているのです」
冷徹な氷のような眼差しで吊るされた男たちを見下ろすエリアス先生の姿に、カルロス殿下は口をぽかんと開けて固まっていた。
「す、すごすぎる……! 一瞬で5人を無力化するなんて……先生、ただの家庭教師じゃないだろ!?」
「ええ、私はただの家庭教師ですよ。……生徒と大切なゲストの安全を守るのも、教師の務めですので」
ふっと柔らかい笑みに戻ったエリアス先生を見て、カルロス殿下は翡翠色の瞳をこれ以上ないほど輝かせるのだった。




