第123話:忍び寄る影
「錬金術の仕組みについては、企業の秘密……ならぬ、我が家の秘密です」
私が人差し指を口元に当てていたずらっぽく微笑むと、カルロス殿下は「ちぇっ、ケチー!」と子供らしく唇を尖らせた。
「でも、すごかったのは本当だよ。あんなすごい防御魔法をドレスに付与できるなんてさ。ぼくの護衛の騎士たちだって、そんなの見たことないって驚いてたもん」
運ばれてきた『シュワシュワ果実水』を一口飲むと、微炭酸のような爽やかな刺激と甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった。
「わぁ……本当にパチパチします! 美味しい!」
「だろー!? ぼく、こういう城にはない新しいものを見つけるのが大好きなんだ。教科書に書いてある古い歴史も大事かもしれないけど、今の街で何が流行ってて、みんながどんな工夫をしてるかを知る方がずっと面白いよ」
カルロス殿下は嬉しそうにタルトを頬張りながら、目を輝かせる。
王族としての重責から逃げ出したいだけではなく、この国の「今」を知りたいという好奇心と情熱。その素直な瞳を見ていると、ただのやんちゃな王子様ではないのだと実感させられる。
「先生、殿下はとても立派な視点をお持ちですね」
「ええ。方向性と行動力に少々問題がありますが……視点そのものは、一国の王子として非常に頼もしい限りです」
エリアス先生が眼鏡を押し上げながら静かに頷くと、カルロス殿下は「先生に褒められると、なんか照れるな……」と照れくさそうに頭を掻いた。
そんな穏やかで楽しい時間が流れていた、その時――。
「……グルル」
私の足元で静かに伏せていたノワールが、低く低い唸り声をあげて起き上がった。
フサフサの耳をピンと立て、店の入口ではなく、路地裏に面した小さな窓の外を鋭い眼光で見つめている。
「ノワール……? どうしたの?」
「……静かに。オリカ様、殿下から離れないでください」
エリアス先生の雰囲気が一瞬で跳ね上がった。
先ほどまでの穏やかな家庭教師の顔は消え去り、鋭利な刃物のような冷徹な警戒感が店内を満たす。
窓の外の薄暗い路地裏から、じっとこちらを窺う不穏な気配がいくつも近づいてきていた。




