第120話:逃亡癖の王子様と、昨夜の真相
「殿下……とおっしゃいましたか?」
私が尋ねると、金髪の少年は「あ、しまった!」という顔をして慌てて口を押さえた。
けれど、もう隠しきれないと悟ったのか、降参したようにふっと息を吐く。
「……はぁ、バレちゃったなら隠しても仕方ないか。ぼくはカルロス。この国の第二王子なんだ」
やっぱり!
カルロス殿下と名乗った少年は、バツが悪そうに頭を掻いた。
「本当は昨日の夜会にも出席しなきゃいけなかったんだけど……息苦しい挨拶回りが嫌で、護衛の目を盗んで会場を抜け出しちゃってさ。結局見つかって一晩中お説教されたんだ」
「昨夜も抜け出されていたのですか……!?」
「うん。で、今日も厳重に見張られてたんだけど、どうしても王都の街が見たくてまた逃げ出してきたんだよ。さっきの男たちは、ぼくを連れ戻すために追ってきた城の極秘護衛たちでさ……」
呆れ顔のエリアス先生が、静かに眼鏡の位置を直す。
「なるほど。昨夜の夜会で第二王子殿下がお姿を消されたという噂は小耳に挟んでおりましたが、そのような事情でしたか」
「ん……? おじさん、どこかで見たことあるような……あっ、エヴェレット公爵家に雇われたっていう、噂の新しい家庭教師先生だろ! 平民や下級貴族相手でも教え方がすごくて優秀だって、街の評判で聞いたことあるよ!」
「光栄にございます、カルロス殿下。市井の家庭教師にすぎない身ですが、お見知りおきを」
エリアス先生が過不足のない綺麗な礼を執ると、カルロス殿下は「かーっ、やっぱり噂通り堅物そうだなぁ」と苦笑いした。
けれどすぐに視線を私へと向け、翡翠色の瞳をキラキラと輝かせる。
「それより君! 昨夜の夜会でグランベル家のあの生意気なレオナルドをギャフンと言わせたっていう、エヴェレット公爵家のオリカちゃんだよね!? 僕、会場を抜け出す直前に物陰から見てたんだ!」
(物陰から見てたんだ……!?)
昨夜の夜会の裏でそんな逃走劇があったとは知らず、私は目を丸くするのだった。




