第119話:要塞の壁と、翡翠の瞳の少年
「ハッ、邪魔だ引っ込んでろ! そのガキを寄こせ!」
棍棒を手にした男たちが強引に突っ込んできた。
だが、エリアス先生が指先を一筋動かした瞬間、透明な魔力の障壁が男たちの進行ルートを完全に遮断する。
「がはっ!?」
目に見えない壁に激突し、男たちが派手に転がった。
さらに、私の前でどっしりと身構えたノワールが「ガアッ!」と神獣たるフェンリルの威圧を放つ。それだけで男たちは恐怖に顔を引きつらせ、逃げ出していった。
「ひ、ひぇぇぇっ! 化け物だーっ!」
一瞬で静まり返る小路。
フードの少年は目を見開き、私とエリアス先生、そして大きなノワールを順番に交互に見つめた。
「すご……一瞬で追い払っちゃった……」
「怪我はありませんか? もう大丈夫ですよ」
私が歩み寄って手を差し伸べると、少年はハッとしたように深く被っていたフードを上げた。
乱れた金髪の間から覗くのは、やっぱり引き込まれるような美しい翡翠色の瞳。私と同じくらいの年齢に見えるけれど、どこか品格を感じさせる面立ちをしている。
「あ、ありがとう……。ぼくは――」
少年が言葉を言いかけたその時、遠くから「殿下ーっ! どこに行かれたのですか殿下ーっ!」という切羽詰まった叫び声が聞こえてきた。
「しまっ……! 追手は巻けたけど、教育係のオッサンたちに見つかる!」
少年は青ざめると、私の手をぎゅっと握りしめて真っ直ぐ目を見つめてきた。
「助けてくれたお礼は絶対にする! だからお願い、もう少しだけぼくを隠してくれないか!?」
(殿下……!? さっきの男たちは強盗じゃなくて、連れ戻しに来た護衛(あるいは不審者)で、この声はお世話係の人……!?)
想定外のビッグネームの匂いに驚きつつも、私はエリアス先生と顔を見合わせるのだった。




