第118話:街の雑踏と、逃げてきた少年
「待てーっ! 捕まえろ、そのガキを逃がすな!」
「くっ……しつこい奴らだな!」
通りを埋め尽くす人混みを割って、一人の少年が猛スピードで走ってきた。
使い古されたフード付きのケープを深く被り、顔を隠しているけれど、その身のこなしはどこか上品で仕立ての良さそうな服地が見え隠れしている。
「きゃっ!?」
「おっと、危ない!」
勢い余って曲がり角から飛び出してきた少年と、私が鉢合わせになりかける。
事故を察知したエリアス先生が瞬時に私の前へ立ちふさがり、足元にいたノワールも静かに身体を割り込ませて衝撃を受け止めた。
どすん、とノワールのフサフサな毛並みにぶつかって、少年は尻餅をつく。
「た、助かった……って、うわっ!? 巨大な狼……!?」
「怪我はありませんか、そこの君」
エリアス先生が冷徹かつ穏やかな声で声をかけつつ、サッと素早く私を背中に庇う。
ノワールも「グルゥ……」と低く喉を鳴らして、警戒を解かない。
「す、すまない! ぶつかりそうになって! ……って、くそっ、追手が追いついてくる!」
少年が焦ったように振り返ると、男たちが「いたぞ!」「囲め!」と粗暴な声をあげてこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
(どうしよう……盗賊に追われているのかな? でも、あの男たちの身なり、なんだか柄の悪い私設の用心棒みたい……)
フードの隙間から見えた少年の瞳は、どこか見覚えのあるような綺麗な翡翠色をしていた。
怯えつつも必死に前を睨みつける少年の姿に、私はとっさに判断を下す。
「先生、ノワール! あの子を助けてあげてください!」
「……かしこまりました。オリカ様のお言いつけとあらば」
エリアス先生が眼鏡の位置をそっと直すと、不敵な笑みを浮かべたのだった。




