第113話:兄の乱入と、高笑う父
「――ちょっと待ちなさい、レオナルド!」
素直に謝罪したレオナルド様と私の間に、素早く割り込んできたのはお兄様だった。
私の前に立ち塞がり、ライバルを牽制するように腕を組む。
「我が妹の完璧すぎる対応に免じて今の無礼は不問にしてやるが、これ以上オリカに近づくことは許さん。……特に、ダンスの打診など万死に値する!」
「はは、まだ一言もダンスに誘うとは言っていないのだがな、ルファス。……だが、そうだな。彼女に相応しいエスコートができるよう、私も精進するとしよう」
レオナルド様は肩をすくめ、愉快そうに微笑みながら公爵夫妻へ一礼し、自分の家族の元へと戻っていった。
お兄様はお兄様で、去っていく背中に向かって「絶対に近づかせないからな……!」と低い声で呟いている。
(お兄様、ライバル心を燃やしすぎです……!)
一方、お父様はというと、鼻の下を伸ばしながら私の肩を優しく抱き寄せていた。
「ハハハ! 見たかグランベル侯爵! 我が愛娘オリカの、あの優雅で隙のない対応を! お前の息子の小細工など、オリカの前では微風も同然だーっ!」
「あなた、声が大きいですわよ」
お母様が呆れつつも、嬉しそうに扇で口元を隠す。
お父様の高笑いは大広間に響き渡り、周囲の貴族たちも「さすが公爵家のお嬢様……」「グランベル家の若き天才の仕掛けをあのように軽く流すとは……」と、驚嘆の眼差しを私に向けていた。
(よかった……! ドレスの要塞化も、エリアス先生のマナー特訓も、全部ちゃんと役に立ったみたい!)
心の中でガッツポーズを決めつつ、私は優雅な笑顔を崩さずに周囲へ一度深々とお辞儀をした。
過保護な家族に見守られ、ライバルの探り合いすら完璧に退けた私の社交界デビュー。
大夜会の夜は、まだまだこれから賑やかになりそうだった。




