第111話:ライバルの接触と、秘めたる鉄壁
「これはこれは、公爵閣下。本日の夜会でお目にかかれるとは光栄ですな」
鷲鼻の紳士――グランベル侯爵が、うやうやしくもどこか挑戦的な笑みを浮かべて頭を下げた。
お父様もまた、一切の隙を見せない極上の貴族スマイルで応じる。
「久しいな、グランベル侯爵。相変わらずお健やかなようで何よりだ」
大人たちの間で一瞬にしてバチバチとした緊張感が走る中、侯爵の隣にいた少年――レオナルド様が、お兄様に鋭い視線を向けた。
「ルファス。学院の外で会うのは新鮮だな。……そして、そちらが噂の妹君か」
「レオナルド。オリカに不躾な視線を向けるなと、学院でも言ったはずだが?」
お兄様の声のトーンが露骨に一段低くなる。
けれどレオナルド様はお兄様の威圧を軽く受け流し、私の方へと一歩踏み出すと、胸に手を当てて優雅なお辞儀をして見せた。
「初めまして、オリカお嬢様。私はレオナルド・グランベルと申します。ルファスから『世界一可愛らしくて聡明な妹だ』と毎日嫌というほど聞かされておりましたが……なるほど、噂以上の愛らしさだ」
(毎日嫌というほど!? やっぱりお兄様、学院で私のこと喋りすぎです……!)
恥ずかしさで顔が熱くなりそうになるのをぐっと堪え、私はエリアス先生と練習した通りの完璧な動作に入った。
手にしたレースの扇を優雅に開き、右頬の近くへそっと添える。
「お初にお目にかかります、レオナルド様。お兄様から優秀なご友人のお話を伺っておりましたので、お会いできて嬉しく思います」
完璧な扇言葉と隙のないカテシー。
さらに『友人』と表現することで、ライバル関係の刺々しさを柔らかく受け流してみせる。
「……っ!?」
レオナルド様が微かに目を見張り、息を呑んだ。
お父様とお母様は「見たか、我が娘の完璧なマナーを!」と言わんばかりに鼻高々だ。
「……なるほど。単に守られているだけの箱入り娘かと思っていましたが……予想以上に隙がありませんね」
レオナルド様が感心したように口元を緩める。
もちろん、彼が感心しているのは私の見た目やマナーの完璧さに対してだ。
このドレスの裏地にも靴底にも、私自身が【絶対不壊】を重ね掛けした『歩く要塞』状態になっていることなど、誰ひとり知る由もなかった。




