第110話:王城の門と、圧倒的な視線
王城の大広間へと続く煌びやかな回廊を、私たちは足音も静かに進んでいた。
天井からは巨大な魔法水晶のシャンデリアが眩い光を投げかけ、会場内には管弦楽の美しい調べが響き渡っている。
色とりどりのドレスを纏った淑女たちや、絢爛な礼装に身を包んだ貴族たちがグラスを片手に歓談していたが――私たちが足を踏み入れた瞬間、その雑踏が一瞬にして静まり返った。
(うわ……すごい視線……!)
「あの方々が……グランベル家と並ぶ王国の双璧、公爵家のご家族か」
「ご覧なさい、あのお命じになられた愛娘様を……」
「なんて可愛らしい……いや、それ以上にあの気品と佇まいは何だ?」
ざわ……と広がる感嘆と好奇の声。
お父様とお母様は、一切の隙もない完璧な公爵夫妻の笑みを浮かべて堂々と歩き、お兄様もまた凛とした騎士のような立ち振る舞いで私の少し斜め前を警護するように歩いている。
私はエリアス先生に叩き込まれた通り、背筋をピンと伸ばし、あごを軽く引いて優雅な微笑みを絶やさない。
内側には要塞レベルの【絶対不壊】を纏っているという心の余裕も手伝って、周囲の視線に気押されることなく歩くことができていた。
「……素晴らしいわ、オリカ。完璧なエスコートに応えてくれていますね」
お母様がそっと扇の陰で褒めてくれ、お父様も誇らしげに胸を張る。
けれど、お兄様の視線だけは鋭く会場の一角を射抜いていた。
「父上、来ましたよ。……グランベル侯爵家です」
お兄様の呟きにつられて視線をやると、人集りを割ってこちらへ近づいてくる一団があった。
威厳に満ちた鷲鼻の紳士と、その隣に立つ、お兄様と同年代くらいの意志の強そうな少年。
(あの方が……お兄様のライバル、レオナルド様……!)
グランベル侯爵家の面々が、私たち公爵家へと真っ直ぐ足を進めてくる。
華やかな夜会の裏で、貴族たちの静かな牽制と探り合いの火蓋が、ついに切られようとしていた。




