第107話:真夜中の錬金術と、防護のドレス
お父様の猛烈な悶絶騒ぎから数日。夜会へのカウントダウンが進む中、仕立て屋からついに私のドレスが届いた。
ハンガーにかけられたそれは、夜空を閉じ込めたような深い紺色のシルクに、繊細な銀糸の刺繍が施された素晴らしい仕上がりだった。
お母様が選んだ上品なレースと、お兄様が拘った目立たない防護糸が見事に調和している。
「ふふ、とっても素敵なドレス……」
深夜、自室に飾られたドレスを月明かりの下で見つめながら、私はそっと手を触れた。
家族が私の安全と引き立ちを心から願って作ってくれた特別な一着。なら、私自身の手で『完璧な仕上げ』を施したくなるのは当然の心理だった。
(お兄様が裏地に防護の糸を込めてくれたけれど……私自身の【絶対不壊・元素無効】の錬金術も上書きしておこう)
家族には秘密にしている私の本当の能力。
万が一、園遊会で毒物や不審な魔法攻撃、あるいは予期せぬ事故が起きても、このドレスを着ている限り私自身は傷一つ負わなくなる。
指先をドレスの裾に触れ、静かに魔力を流し込む。
つ……と青白く淡い光が布地の繊維一本一本に染み込んでいく。
触り心地や見た目の柔らかさは完璧なシルクのままだが、概念的には『あらゆる衝撃と属性攻撃を完璧に弾く絶対防御の衣』へと変貌を遂げた。
(よし、これでドレスの防護は完璧。あとは帯飾りに忍ばせる霜降り草の『氷の折り花』と……念のため、靴底にも耐衝撃の付与をしておこうかな)
足元で目を覚ましたノワールが、不思議そうに『きゅぅ?』と首を傾げて寄ってくる。
「ノワール、静かにね。みんなには秘密なんだから」
人差し指を口元に当てると、ノワールは理解したように「ふしゅー」と鼻を鳴らして私の足元に寄り添った。
過保護な家族の愛が詰まったドレスに、自らの秘密の力を密かに上乗せして。
どんなトラブルが起きようとも絶対に揺るがない無敵の準備を整え、私は静かに社交界デビューの夜を待つのだった。




