第106話:扇のお披露目と、父の苦悩
エリアス先生との特訓を終えた翌日、私はサロンでお茶を楽しんでいたお父様とお母様の前で、早速レッスンの成果をお披露目することにした。
「お父様、お母様。エリアス先生に教えていただいた扇のマナーを、少し見ていただけますか?」
「まあ! オリカの扇の扱い方? ぜひ見せて頂戴!」
お母様が嬉しそうに目を輝かせ、お父様も身を乗り出して「見たい! ぜひ見せておくれ!」と頷く。
私はすっと背筋を伸ばし、手に持ったレースの扇を胸元で静かに構えた。
まずは、目上の貴族に対する最上級の敬意を示す挨拶。
扇を軽く閉じ、胸元に斜めに添えながら、完璧な角度で膝を折る(カテシー)。
「……っ!?」
お父様とお母様が息を呑む音が見事に重なった。
続いて、好意的な会話の最中に見せる柔らかな微笑みと、扇を右頬にそっと寄せる動作。
さらには、不躾な相手を寄せ付けない『拒絶』のパタパタまで、淀みなく披露してみせる。
「――いかがでしょうか?」
扇をパチンと優しく閉じ、首をかしげて尋ねると、サロンに静寂が訪れた。
あまりの静けさに「あれ、失敗したかな?」と不安になった瞬間――。
「「……す、素晴らしい……!!!」」
お父様とお母様が立ち上がり、割れんばかりの拍手を送ってきた。
「なんて優雅なの……! 立ち振る舞いも、扇の角度も完璧だわ! まるで社交界を何年も収めてきた高貴な姫君のようよ!」
「完璧だ……! 完璧すぎるぞオリカ! 天才だ! いや、美の女神の降臨だーっ!!」
お父様は感涙にむせびながら私を抱き上げ、頬をすり寄せて大絶賛。
けれど、急にハッと表情を強張らせると、頭を抱えてサロンの床に崩れ落ちた。
「ああ……だが、どうしよう……! こんなにも完璧で愛らしいオリカを社交界に連れて行ったら、会場中の男どもが一瞬で虜になってしまう……!」
「あなた、落ち着いてくださいな」
「落ち着いていられるか! こんな完璧な我が子を見たら、どこぞの馬の骨どもが群がってくるに決まっている! やっぱり園遊会は辞退だ! オリカは屋敷の庭でノワールと遊んでいるのが一番安全なんだ……!」
「ふふ、お父様。私、変な人が来てもさっきの『拒絶のパタパタ』で追い払いますから、大丈夫ですよ」
私がクスッと笑って扇を胸元でパタパタさせて見せると、お父様は「その拒絶の姿すら愛らしすぎて逆効果だー!」と頭を抱えて悶絶していた。
親バカ全開の両親に苦笑しつつも、褒められた嬉しさに胸を躍らせる私だった。




