第105話:氷の魔導紙と、兄の特訓
扇を使ったマナーレッスンを終えた後、私は自室に戻って『霜降り草の紙』の最終調整に取りかかっていた。
夜会は多くの人が集まり、熱気や熱気がこもりやすい。
それに、もし何かトラブルが起きて炎魔法などで襲われた場合にも備えておきたい。
(霜降り草の紙で作った保冷の折り紙に、私の【絶対不壊・元素無効】を極限まで高めて付与しておけば……)
指先から集中して魔力を流し込む。
青い紙がふわりと光を放ち、手触りは紙というより、滑らかな薄い氷の結晶のようになった。
外見は普通の折り紙なのに、どんな火炎攻撃も防ぎ、さらには周囲の温度を快適に保つ究極の『氷の魔導護符』の完成だ。
それを小さな花の形に折り上げ、ドレスの帯飾りに忍ばせられるよう整えていると、ドアがトン・トンと叩かれた。
「オリカ、入ってもいいかい?」
「お兄様! どうぞ!」
部屋に入ってきたお兄様は、手に木剣ではなく、何やら分厚い図鑑のようなものを持っていた。
「エリアスから聞いたよ。扇のマナーも完璧にこなしたそうじゃないか。さすが僕の自慢の妹だ」
お兄様は私の頭を優しく撫でると、持ってきた図鑑を開いてテーブルに広げた。
「実はね、園遊会に出てくる『害虫』……ゲフン、同年代の男の子たちの特徴をまとめておいたんだ。グランベル侯爵家の息子レオナルドを筆頭に、近づいてきたら注意すべき人物リストだよ」
お兄様が自作したらしいそのノートには、各貴族家の息子の顔写真(お兄様の手描き)と、性格や癖、対策がびっしりと書き込まれていた。
(お兄様……学院の勉強より熱が入っていませんか……?)
「もし変な奴が近づいてきたら、さっき習った『拒絶の扇』をパタパタさせるんだ。それでも諦めないような不躾な奴がいたら、すぐに僕か父上を呼びなさい。一瞬で排除するからね」
「ふふ、お兄様、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。私にはこれもありますから」
私は出来上がったばかりの氷の折り花を手の平に乗せて見せた。
お兄様は一目でその極上の魔力密度に気づき、目を丸くする。
「これは……霜降り草の紙に、オリカの防護魔法が完璧に組み込まれているね。……すごいな、本当に」
驚きから感心へと表情を変えたお兄様は、少し頼もしそうに微笑んだ。
「……うん、オリカは本当に強い子だね。でも、僕たちが君を守りたい気持ちも忘れないでほしいな」
「もちろんです! お兄様がいてくれるから、私、全然怖くないですよ」
過保護で、でも誰よりも頼もしい家族。
完璧な装いと知識、そして自分自身の『魔法』を手に、私の社交界デビューへのカウントダウンは着々と進んでいくのだった。




