第101話:秋風の知らせと、夜会の招待状
季節は巡り、公爵領の木々が鮮やかな黄金色や紅に染まる秋を迎えていた。
涼やかな風が吹き抜ける中庭では、色づいた落ち葉がカサカサと心地よい音を立てて舞っている。
図書室での午前の勉強を終えた私は、執務室から戻ってきたお父様とお母様、そして学院が休講で帰省中のお兄様とお茶の時間を過ごしていた。
「――オリカ、少し話があるんだ」
いつもなら満面の笑顔で飛びついてくるお父様が、珍しく公爵としての引き締まった表情を浮かべていた。
テーブルの上には、上品な銀色の封蝋が施された豪奢な手紙が一通置かれている。
「お父様、それは……?」
「来月、王都の王城で開かれる秋の園遊会――各貴族家の当主とその後継者、そして令嬢たちが一堂に会する公式の夜会の招待状だ」
お父様の言葉に、隣でお茶を淹れていたお母様の手がわずかに止まり、お兄様の眉がピクリと跳ね上がった。
「これまでお前がまだ幼いこと、そして……あの誘拐未遂の一件もあり、外部への顔見せは最小限に留めてきた。だが、オリカももうすぐ八歳。公爵家の令嬢としての存在を、社交界に正しく示さねばならぬ時期が来たのだ」
お父様の苦渋に満ちた表情から、本音では「可愛い娘を他人の目に晒したくない」「危険な場所に一歩も外へ出したくない」という過保護な叫びがダダ漏れになっているのが分かる。
案の定、お兄様がすかさず身を乗り出した。
「父上! まだ早すぎるのでは!? 社交界には腹黒い貴族や、我が公爵家の権勢を目当てにオリカにすり寄ろうとする輩がごまんといます! 学院の僕の同級生たちですら、オリカの噂を聞きつけて探りを入れてくるというのに……!」
「ルファス、落ち着きなさい」
お母様がそっとお兄様の肩に手を置き、ため息をついた。
「お前の言う通り、オリカの愛らしさと才能は隠しておきたいくらいです。けれど、いつまでも隠していては、かえって無用な憶測や悪意ある噂を呼んでしまいます。それに……オリカは私たちの想像以上に、強く立派に育っていますよ」
お母様の優しい視線が、私に向けられる。
エリアス先生と学んできた礼儀作法、魔力の制御、そして自分の身を守るための様々な知識。
(ついに、貴族の社交界か……)
前世の普通の生活からは想像もつかない煌びやかな世界に、ちょっぴり緊張が走る。
けれど、ただ怯えて家族の腕の中に隠れ続けるつもりはなかった。
「お父様、お母様。私、行ってみたいです。公爵家の名に恥じないよう、ちゃんとご挨拶してきます」
私が背筋をピンと伸ばして答えると、お父様とお兄様は感動で目を潤ませながら、同時に叫んだ。
「「立派に育ちすぎて父(兄)は嬉しいけれど、やっぱり行かせたくない……!!」」
重すぎる家族の愛に苦笑いしつつ、私は初めての公式夜会に向けて、新たな準備を始めることを決意するのだった。




