第8話:初めての魔力測定
第8話:初めての魔力測定
目の前に差し出された、
きらきらと輝く透明な水晶玉。
お兄様が嬉しそうに
微笑んでいる。
「さあ、オリカ。
この測定器に優しく
手を触れてごらん。
怖くないからね」
(怖い! めちゃくちゃ怖い!!)
私のMPは【∞(無限)】。
ただの子供用の測定器に
そんな規格外の魔力を流したら、
過負荷で木っ端微塵に
吹き飛ぶ未来しか見えない。
パパ(ギルバート)もママ(エレノア)も、
「どんな属性かしら」と
ワクワクした目で私を見つめている。
もう逃げ場はなかった。
(こうなったら、一か八かよ……!)
私はごくりと唾を飲み込み、
小さな手のひらを、
そっと水晶玉へと重ねた。
――その瞬間。
ドクンッ!!!
私の体から、あの国家機密の時と
同じように、暴力的なまでの魔力が
濁流となって水晶玉へ流れ込んだ。
みしっ……みしみしみしっ!!!
透明だった水晶玉が、
一瞬で見たこともないような
禍々しい漆黒に染まり、
限界を告げる悲鳴を上げ始める。
表面にみるみるうちにヒビが入っていく。
(やばい! やっぱり爆発する――っ!
『錬金』、お願いだから耐えて!!)
私は心の中で必死に叫び、
触れている手のひらから
【錬金】スキルを全力で発動した。
狙うは、この測定器の「超強化」、
そして魔力表示の「偽装」だ。
ピカァァァ! と、
水晶玉が内側から、まばゆい
真っ白な光を放ち、
壊れかけていたガラスの繊維が
一瞬で再構築されていく。
傷一つない、ダイヤモンドのような
眩しい輝きを放ち始めた水晶玉。
その内部に、ぽつんと
小さな『ピンク色の光』が
一つだけ灯っていた。
「お、おお……?」
じっと様子を見ていたパパが、
不思議そうに目を丸くした。
「これは……かすかな光だな。
属性の色はピンク……いや、
これは無属性、
いわゆる『生活魔法』の光か?」
「ええ、そうみたいね。
魔力量の数値も……あら?
目盛りが一番下の『5』のところで
止まっているわ」
ママがおっとりと首を傾げる。
一般の1歳児の平均が「10」前後
らしいので、「5」というのは
平均よりもかなり低い、
か弱い数値だった。
(ふぅぅぅ……!!!
あっぶなーーーーい!!!)
私は心の中で、
本日何度目か分からない
ジャンピング土下座をかました。
脳裏にピコンと
【錬金成功:魔力測定器(偽装仕様)】
という文字が見える。
私の∞の魔力でゴッドレア化した測定器は、
「魔力を限界まで遮断し、
数値を一桁に偽装して出力する」という
とんでもない詐欺アイテムに変貌していた。
「無属性で、魔力は5……。
エヴェレット公爵家の血筋としては、
少し珍しい結果になったね」
お兄様が少し驚いたように
水晶玉を見つめている。
私はハラハラしながら、
みんなの顔色を伺った。
(やっぱり、がっかりしちゃったかな?
代々強力な魔力を持つ大貴族なのに、
娘が落ちこぼれ数値だなんて……)
前世でも、期待に応えられないで
見放された記憶がよぎり、
少し胸がチクリと痛む。
しかし、私のそんな不安は、
次の瞬間、パパの雄叫びによって
木っ端微塵に粉砕されることになった。
「素晴らしいッ!!!
これぞ神の祝福だあああーーーっ!!!」
(……へ?)
パパは感動のあまり
床に膝をつき、
再び滝のような涙を流し始めた。
「魔力が5ということは、
体に負担が全くかからんということ!
無属性ということは、
危険な攻撃魔法の暴走とも無縁!
ああ、オリカはただ優しく、
健やかに生きるために生まれてきてくれたのだ!
最高だ、最高すぎるぞオリカァァァ!」
「本当にね、あなた。
これで社交界のきな臭い権力争いに
巻き込まれる心配もありませんわ。
一生、我が家で可愛がりましょう」
「うん、僕が一生、オリカを守るよ。
落ちこぼれなんて言わせない。
オリカに手を出そうとする奴は、
僕の雷魔法で消し去るからね」
お兄様の目から、
すさまじいシスコンの光が放たれる。
(みんな、優しすぎない……!?)
落ちこぼれ数値を叩き出したのに、
「安全で最高!」「一生養う!」と
むしろ大喜びしている家族たち。
愛の深さに感動しつつも、
「でも本当の私はHPもMPも
無限のバケモノんだよね……」と、
やっぱり秘密を墓場まで
持って行くことを誓う、
1歳になったばかりの私なのであった。




