第1話 《日常から》
何気ない夏休みの朝。カーテンの隙間から揺ら揺ら揺れる光が部屋の中に入り込む。
早起き、というものが勝手に身についてしまった彼、小鳥遊雅は欠伸をしながらも身を起こす。
「もう朝か…」
学生であった彼は勉強やバイト詰めな彼は嫌そうに顔を顰めてはいるものの身を起こした為カーテンを開ける。外を見れば雲ひとつ無い青い空が広がって、あまり人の歩いていない住宅街が目に映った。きっと外に出たらとても気持ちがいいだろう。だが疲労の溜まっている彼にそんな気力はなく、折角起き上がってそのままカーテンを開けたというのに、ベッドへダイブする。枕に顔を埋めてぎゅぅ…と枕を抱きしめる。
すると、ブブッと音を立てて枕元のスマホが震える。彼は見なくてもいいだろ、なんて考え、無視していると、更に何度も、何度もスマホが震えていく。
「ぁあ、?」
数秒放置しても震えの止まらないスマホに睡眠が阻害される、と確信した彼は枕から顔を上げて、スマホに手を伸ばす。スマホを見てみるとそこにはスタンプが数百件、霧島綾祐から来ているという通知が表記されている。スマホを開き、そのメールを遡っていくと、そこには明るくめちゃくちゃ強引な文面が。
『おはよぉー!!マイフレンド!どうせ暇だろ!?
あそぼーぜー!いつもの駅前集合で、8時半集合な!』
「は…?」
その文面を見た瞬間思考が固まる。彼は剣道の試合で今日はいないはず。中止になったのだろうか。にしても綾祐8時半集合、と言いながらも現時刻は既に8時7分。送ってきたのは8時ぴったり。
ここから駅までは20分ほどかかるというのに。確定遅刻だ。
少し焦りからベッドから跳ね起きる。別に彼が悪い訳では無いが、行くことに決めた彼は遅刻だけは避けたいらしい。服もパッと着替え、一階へかけ下る。身支度を早めに終わらせては現時刻8時18分。玄関へ行き、扉を開いて、外へ出ようとするがすんでのところで固まる。先に見えていた景色は普段の住宅街じゃない。中世ヨーロッパの典型的な異世界の景色だ。
「なんなんだよこれ…」
その街を歩いている獣の耳やしっぽを生やした人や荷車を引く見たことない恐竜のような二足歩行の生物、外から入ってくるガヤガヤとした音に、ふわりと頬を撫でる優しいそよ風に、呆然と固まる。扉を閉め、現実かどうかを頬を叩き確かめるが、パチン!という乾いた音と共に少し頬が赤くなり、ヒリヒリと痛む。現実という事だ。
もしかすれば元に戻っているかもしれない、そういう希望を抱き扉を開けるが、依然としてその景色は変わらない。
「やばい…あ、スマホ…」
異世界というありえない状況や、もう帰れないかもしれないという不安という感情に冷静さは呑まれていく。スマホを見ても、勿論のごとく圏外。WiFiに繋ごうとしてもできない。圏外になっている上、WiFiも繋がらないのでもう既にお察しだが、玄関だけが異世界へのゲートになっている微かな可能性を信じて、走って1階の窓、2階の窓から外を覗く。
無論どこも別の異世界の景色で微かにあった冷静さは完全に呑まれきってしまう。足が少し震え、何度か外を見るが変わらない景色に徐々に覚悟を決めていく。ゆっくりではあるものの、着替えや最低限の日用品を少し大きなバッグに詰め、一息をつき、玄関を開き、異世界へと1歩踏み出す。
不安を心に抱えつつも何処か異世界系の小説やアニメのようにご都合展開があるのを信じて。




