ラムダのステータス
「ハッ!?」
『ハッ!?』
僕たちは同時に我に返り、改めてステータスウインドウを凝視した。いや、もちろん凝視したのは僕だけなんだが。
「これって、ラムダのステータスなんだよね?」
『そう…ですね。今のままではカナトには読めないとは思いますが、確かにワタクシのステータスのようです』
そう、そうなのだ。確かにステータスウインドウが開いたのだが、その内容は僕には全く理解できなかったのである。
「で、読めるようにできるの?」
『…出来なくはありませんが、この手のスキルは今のエネルギー残量を考慮すると使用は推奨しません』
なるほど、そうきたか。
「もう一度聞くけど……これって僕のステータスの中の持ち物欄とかじゃないくて、ラムダ自身のステータスなんだよね?」
『大変驚きましたが、その通りです。これを見る限り、ワタクシはどうやらこの世界には魔道具として認識されているようです』
魔道具…か、まあそんなところだろう。だが、道具そのものにステータスが在ることは珍しいのか?
僕のいた世界ではそういう描写が割とあるから、驚くようなことではないのだが。
「一体何に驚いてるのさ?」
『…………それは、この内容全てです』
そう言ってラムダは説明を始めた。大まかに言えばラムダは僕が所有する魔道具で、レアランクはSSS、それからーー
「ちょ、ちょっとまって、ラムダさん!!?」
ランクSSS?さらっと言ってるけど、それって一番凄い魔道具ってことじゃないんですか、ラムダさん。
『すみません、カナト。ワタクシ、これでも驚いているのですよ。どうもワイヤレスイヤホンというガジェットと融合したことで、感情が希薄になっているようです』
あ、もう融合しているのは確定なんだ。まあ、そう言ってはいたが、僕はまだにわかには信じられない。しかも、それが神かもしれないなんて。
ーーでも
「SSS、か。ラムダはホントに元は神様だったのかもね」
『それについても記載があります』
あるんかい!
『というより分類という項目があるんですよ』
そりゃあ魔道具だったらそのくらいあるでしょうよ。
「その分類がどうしたのさ」
『カナトも察している通り、剣や指輪、サークレットなどその道具の姿形、用途などで分けられている、いわゆるあの分類というわけなのですが…』
そこには通常であれば
分類=剣
のように記載されているはずなのだが、ラムダいわくーー
分類/種族=ノイズ/(???)
となっているらしい。
「それ、どういう事?」
ラムダの言い方からして、神様とか書いてあるのかと思ったが、これでは何も書かれていないのとさほど変わりない気がする。
『そうでもありません。まず、分類に関してですが、ノイズになっているのはこの世界にワイヤレスイヤホンが存在しないので、どう表記するのか分からなかったのでしょう。カナトが読めるように翻訳変換すれば、おそらくワイヤレスイヤホンと表記されるはずです』
な、なるほど。
「それで、種族のほうは?」
『それがお教えした通り、???なのですよ。これはおそらく、この世界の神々ですら、ワタクシの過去の存在を認識できていないと推測されます』
「それって、重要なことなんだよね?」
『それ自体はさほど重要ではありません。
というのも、ワタクシはどのような方法かは分かりませんが、一度カナトの世界に転移し、イヤホンと融合してからこの世界に戻ったわけです。その様な例は他にないと推測されますので、神々がワタクシの事を分からないのは当然でしょう』
ラムダはそれよりもーーと前置いて、先を続けた。
『重要なのはカナト、あなたが神々に認識されている事なのです』
えっ!?
僕が認識されている?なんで分かる?ラムダさん、そんな事をいってました?
『はい、カナト。ワタクシがあなたの所有する魔道具ーーと記載されている、と』
た、確かに…………言っていた、か?
うん、言っていたな。
じゃあ、なんでーー
「ーーーーなんで、僕にはステータスがないのさ?」
『それは先ほど言った通り、カナトが正規のルートでこの世界に転移していないからです。しかし神々は、それでもあなたを認識している。……それが吉と出るか、凶と出るかは、現段階では不明です』
それを判断するには、情報が少なすぎるってわけか。まあ、当然っちゃ当然だよね。だって、今日この世界に来たばかりなんだから。
「まあ、それはいずれ分かるかもよ」
『そうですね、ただ念頭にいれて行動した方が良いとは思います』
僕とラムダは、この件については一旦保留――今後の情報次第、という方向で話をまとめた。
『では、これがもっとも重要な案件ですが………』
ーーーー充電、か。
はたしてーー電気のないこの世界で、どうやってワイヤレスイヤホンを充電するんだろうか?
『それに関してもワタクシのステータスに記載があるかもしれません』
「!!!?」
たしかにそうだ!
充電がラムダにとってステータス的に何にあたるのかは分からないが、回復方法が記載されていてもおかしくない。
「でも、最初に言わなかったんだから、今見ている限りは無いんでしょ?」
『そうですね、この画面には記載がありません。ちょっとカナト、スライドしてページを変えて頂けますか?』
ぼ、僕に出来るのかな?しかし、初めてのステータスウインドウの操作が、他人のものになろうとは、ね。
僕はそっと画面に触れると、ウインドウを指先で横へ滑らせた。
「ど、どう?」
『上出来です、カナト。画面が切り替わりました。しかし、このページにも充電に関する記載はありませんね。次に行きましょう』
あ、随分あっさりーー、まあこのページには大したことは書かれていないのだろう。僕は言われるがままに再度指を滑らせた。
『次、次、次、次、次…………』
いやいや、長いって。今飛ばしてるページは一体何が書かれているんだ?
『まあ、それは後でも良いでしょう。次、次、つ、、、あ、ありました。ここです、このページです』
「おい、今通りすぎようとしなかったか?」
『…………き、気のせいです。それよりもカナト、ありましたよ。充電について書かれています』
良かった!これで当面の問題がようやく解決できるじゃないか。僕はホッと胸をなでおろした。
「で、何て書いてあるの?」
『そうですね、エネルギー補充には魔石、または硝石が必要なようです』
魔石と硝石。
名前からして、いかにもファンタジーな資源だ。
「それって簡単に手に入るものなの?」
『硝石は自然鉱脈などから採取可能。魔石は魔物の核ですね』
…………ん?
「いや、ちょっと待って。それって、魔物を倒さなきゃ手に入らないって事?」
『その認識で問題ありません』
待て待て、問題しかないぞ。
今の僕には武器もない。戦闘経験もない。そして何より――
「ラムダ、戦闘補助とかそういうスキルは?」
『使用可能です。しかし現在の残量では長時間の運用は推奨できません』
つまり、使えば充電が減る。
でも魔石を手に入れるには、スキルが必要。
……完全に詰みかけてない?
『なお、硝石探知機能も搭載されています』
「おお!」
『ただし常時探索を行った場合、現在の残量では数日以内に機能停止する可能性があります』
ズコーーーーっ!
僕はほとんどコントのように倒れ込んだ。なんなんだ、この囚人のジレンマみたいな状況は?
「ラ、ラムダ、僕は疲れたよ。今日は充電できる事が分かっただけでも良しとしよう」
実際にどう充電するかは、明日また考える事にしよう。ったく、魔石や硝石が見つかるまで充電が持てばいいけどなぁ。
『楽観は出来ませんが、希望は持てました。確かにカナトは疲れています。今日はもう休む方が良いでしょう』
「あ、その前にもう一つ聞いていい?」
『なんですか?』
「あのずっと飛ばしてたウインドウ画面は一体何だったわけ?」
『はあ、あれは使用可能スキルですね。全て確認して説明するのは時間的に無駄かと思い飛ばしましたが、今から確認しますか?』
「え、ええー!?あれ、全部使用可能スキルだったの?い、一体何ページ飛ばし……………って、もう今日はいいや」
さすがに疲れた僕は、呆れぎみにベッドに潜り込んだ。




