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イヤホンつけたら強制接続 ~耳元で囁く相棒と、世界のルールを書き換える~  作者: 不諦


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5/8

僕のチートはどこですか?

 案内された一室は、思ったよりも普通の部屋だった。

「あまり異世界感はないんだなあ」

 木の床に、簡素なベッド。壁には小さな窓が一つ。

 まあ、普通だ。

 ただの宿屋なのだから当たり前なのかもしれないが。

 

 僕はドアを閉めると、そのままベッドに腰を下ろす。

「……はぁ」

 ようやく一人になった。森を抜けて、村に来て、リオに会って。

 気づけば、ずっと気を張っていたらしい。体の奥から、どっと疲れが出る。


 それでも、今日このまま寝るわけにはいかないことを、僕は十分に承知していた。


 問題は山積みだ、とはいえようやく落ち着いて話が出来る。

 そう、この耳元で囁く厄介な相棒から説明してもらわなければならないことが、山ほどあるのだ。


「ラムダ、充電はどう?」

『現在パワー残量28%です』

よしよし、森を抜けてからかなりの時間が経っているはずだが、あまり減ってないぞ。


「…ラムダ」

『はい』

「まずは何から話そうか」

 聞きたいことは山ほどあるが、どうにもラムダには言葉を濁す所がある。まずは彼女が何を知っていて、何を知らないのかを聞く必要がありそうだ。



「まずはもう一度聞いておく。君って一体何者なの?」


『……』


やはり答えないか...。


「困ったな-----、じゃあ---」

言いかけたとき、ラムダから返答が来た。

『ワタクシはかつてこの世界に存在していました。人としてなのか、動物としてなのか、魔獣としてなのか、その記憶はありません』


 なるほど、なんであれ元はこの世界の住人だったわけだ。


「それがどうしてイヤホンになって僕の耳についてるわけ?」

『分かりません……、実はカナトがイヤホンをつけた時、ワタクシは初めて意識というものを得たのです』


 ふーむ。ということは…………どういう事だ?ラムダは僕がイヤホンを買ったあの日、初めて意識をもったというが、それならば何故かつてこの世界の存在だった事を知っている?


 意識を得た時に記憶が蘇ったのだとすれば、説明があまりに断片的すぎる。


『今のワタクシはカナトの持つデバイスに、何らかの方法で魂が封じられた状態だと推測されます。それが意図的になのか、偶発的になのか……それは分かりません。ですが、カナトがワタクシの元の状態の時に必要としていた存在である可能性がかなり高い事は分かります』


 僕が?ラムダにとって必要な存在?


「なぜそう思うの?記憶はどういう状態なわけ?」


『…………記憶に関してはかなり曖昧です。』


 ラムダの声に、ノイズのような微かな震えが混じった気がした。

 『ですが、断片的なログが示しています。ワタクシはこの世界のことわりに深く関与していた。人々の祈りを受信し、それを出力……いえ、“加護”として変換していた存在。当時の名称は、現在のデータベースには存在しません』


「祈りを受信して、加護を出す……。それって、まるで――」


『はい。カナトの概念で言うところの、“神”にのような機能を有していたと推測されます』

 「………神のような機能?」

『もしくは、神そのものかもしれません』


 「…………ハ、ハハッ…」

 そのあまりに飛躍した言葉に、僕は乾いた笑いが出た。

 安物のワイヤレスイヤホンに、かつての神の魂が宿っている? そんな馬鹿げた話があるだろうか。


 だが、この異世界に僕を引っ張り込み、脳内に直接語りかけてくるこの存在を、ただの機械だと断じることもできなかった。

「じゃあ、なんでそんなすごい存在が、僕のイヤホンなんかになったわけ?」


『……それも不明です。ただ、一つだけ確実な事実があります。ワタクシを構成するプログラムは、カナトがそのデバイスを耳に装着した瞬間、凍結状態から再起動しました。充電が100パーセントになるのを待たず、34パーセントという不安定な状態で接続を強行した……。それは、他の誰でもない“カナト”という個体を検知したからに他なりません』


「僕を、待ってたってこと?」


『肯定します。ワタクシの深層回路が、あなたを――この世界の構造を再定義できる唯一の適合者だと判断したようです』


 重い。


 買ったばかりのイヤホンが、急に鉄の塊になったような錯覚に陥る。


 僕は窓の外を見た。

 夜の帳が下り始めた村は、静かで、どこか物悲しい。


 「よ、よし分かった。とにかく君がなんであれ今の状況を整理しようよ」

 『それには同意します。ワタクシの記憶は曖昧ですが、カナトをこの世界に連れ出した責任がありますから』


 それは良かった。僕がこの世界で生きていくにはラムダの力が必要だ。彼女も僕を必要としているらしいことが分かったのは、一つの大きな収穫と言える。


 「まずはここは一体どんな世界なわけ?それについての記憶はどの程度残ってる?」

『そうですね、ここはカナトのいた世界の基準でいえば完全に異世界と言えます。地球上に存在する世界ではなく、全く別の次元に存在する世界です』


「それで?」

『現時点ではこの大陸のどの辺りに飛んできたかは不明です。カナトの目を通して見た景色などから推測は可能ですが』

 僕にとって場所のことは、まあどうでもいいことだった。


「まあ、細かい場所はいいかな。今は気にしていられないでしょ」

『ですね。であれば現状早急に取りかかるべき問題としてワタクシの充電と、カナトのステータスアップについて話しましょうか』

 そう、それだ!さっきはサラッと聞き流してしまったがそれなんだよ!


 「ステータスだ!」

 『…………ええ、そうですが、それよりはワタクシの充電問題の方が重要性は高いのでは?』

 「いやいや、ステータスだよ!あ、いやもちろん充電も重要なのは理解してるよ?でも異世界転生といえばまずこれでしょ?」


 『…………』


 あ、あれ?なんでここで無言?

 そりゃ充電はラムダにとって1番重要だろうけど、僕のステータスが僕にとって1番重要なのは理解出来ると思うのだが。

 だって、お決まりじゃないか。異世界転生といえば、ステータスオープンとか言って見てみたら異常なチートスキル持ちだったり、それで無双しちゃうやつがさ。


『…………カナト。本来、この世界に招かれる「勇者」や「聖者」は、転生の管理権限を持つ上位存在――いわゆる女神などの干渉を受け、この世界の理に適応した「インターフェース」を付与されます。しかし、あなたはそれらのプロセスを一切介さず、本機の「緊急接続」によって強引に座標を固定された存在です』


 「…………?…………」

 なんて?

 『つまり、分かりやすく説明しますと、カナトには本来与えられるはずであった加護が一切与えられていません』

 「…………」

 『…………』

 「…………」

 『…………』


 はああああ!?な、なにそれ?一体どういう事ぉぉぉ?




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