頼られる少女
「ちょっとね、魔法が使えるんだ」
リオははにかんだ笑顔でそう言った。
「スゴい!やっぱりさっきのは魔法なんだ?それってやっぱり難しいの?」
僕には彼女の行動と村人たちの反応が、少し引っ掛かる所もあり言葉は選んだ。
「うーん、一般的にはほとんど使える人はいないんじゃないかな。特にここみたいな地方だと」
地理的にここが田舎なのは、僕でもなんとなく分かる気がした。
畑はともかく、井戸は異世界でも少しばかりインフラとしては遅れてる気がする。
木造の家も多い。コンクリートらしきものでできた建物はおそらく一つしかなさそうだ。
「一般的じゃない人ってどういう人なの?」
僕はリオに尋ねたが、もしかしたらラムダから返答があるかなとも思った。
「そうだね、まずはやっぱり冒険者かな」
そう言ったリオは初めて少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
―ーラムダは無反応だ。
充電を気にしてくれているのかもしれない。
「あとは聖職者とか、学者さんとか、宮廷付きの魔術師とかかな?」
なるほど、それは僕の知っているいわゆる異世界だ。
「冒険者…‥」
僕の言葉にリオはピクッと反応する。やはり彼女の表情がわずかに影を落とした。
「リオ?」
「あ、ほら畑に着いたよ!」
リオはごまかす様に軽やかに駆け出し、畑に向かっていった。
どうやらリオは『冒険者』に対して何か特別な想いがあるようだ。
でも今はそれは一旦置いておこう。僕が気にしてるのはそこじゃないから。
ーー畑では、腰の曲がった男が鍬を手に立ち尽くしていた。
リオの姿を見るなり、その顔がぱっと明るくなる。
「おお、リオちゃん。今日も悪いねえ」
「ううん、大丈夫ですよ」
リオはそう言って、ためらいもなく畑に入った。
男が何か言うより早く、彼女は指先を軽く動かす。
土がふわりと盛り上がり、固く締まっていた畝が一気に崩れた。
まるで、長い時間をかけて耕したかのように。
「助かるよぉ、本当に。ちょっと今日は腰の方が限界でよぉ、納期もあるもんで困ってたんよぉ」
「よかった」
リオはそう言って、少し誇らしげに笑った。
その笑顔に、遠慮や気負いはない。
むしろ――頼られること自体を、当然のように受け入れている。
男は礼を言いながら、すでに次の作業の話を始めていた。
まるで、彼女が来るのを前提に一日の段取りを組んでいるみたいだ。
村の人達が僕のことを全く気にしないのも少し引っ掛かる。
それはこの村でのリオの存在が大きすぎるからじゃないのだろうか。
魔法は一般的でないとリオは言っていた。彼女が使える魔法は大したことはないというが、それは冒険者や聖職者と比べればということだろう。
村の人達からすればかなり貴重な力のはずだ。それなのに、この扱われ方は――。
「じゃあ、次は川向こうの畑に行ってくるね」
作業を終えると、リオは軽く手を振った。
疲れた様子はまったくない。
「え、もう?」
思わず声が出た。
「うん。あっちも人手足りてないから」
その言い方も、やけに慣れている。
“たまに手伝う”じゃない。
“日常の一部”だ。
僕は一瞬迷ってから、口を開いた。
「……何か、僕にできることないかな」
リオがきょとんとこちらを見る。
「カナトが?」
「うん。魔法は無理だけど、力仕事とかなら」
まあ、力仕事もそんな得意じゃないんだけれど、一応僕も男だしね。
するとリオは一拍置いてから、ふっと笑う。
「じゃあ、お願いしようかな。みんなもきっと喜ぶよ」
その言葉に、なぜか胸の奥がざわついた。
――僕が手伝いたいのは、助けたいのは、村人じゃなくてリオの方だ。
しかし数分後、僕は一人で宿屋の受付に来ていた。結局力仕事ではなんの役にもたたず、充電の問題上ラムダに頼むわけにもいかなかったから。
『カナト、あなたはあまりにも非力すぎます。早めのステータスアップを推奨します』
仕方ないだろ!さっきまでただのサラリーマンだったんだぞ、と大声で突っ込みたかったが、さすがに人目がある。
そこはぐっと堪えて宿屋のお姉さんに声をかけた。
「あ、あの、僕、赤いマントのリオっていう女の子に紹介されてきたんですが……」
「ああ、あなたがカナトくんね。リオから聞いてるわ、203号室を使っていいわよ」
先にリオに会っておいて本当に良かった。
ただ、部屋の鍵を受け取る僕の手は僅かながらに震えていた。
----僕もリオを利用している。
それでも、まずは状況を整理しないと。
充電問題を解決して、僕自身の現状を理解しないことには先に進めないのだ。




