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イヤホンつけたら強制接続 ~耳元で囁く相棒と、世界のルールを書き換える~  作者: 不諦


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小さな村と赤いマント

森の端に立ち、僕は深呼吸した。

踏み出す足が少し重い。枯葉のカサリとした音と湿った土の匂いが鼻をくすぐる。胸の奥がざわつく。──本当に、ここを抜けられるだろうか。


『左手方向へ600メートル。生命反応を追跡します』

 「いや、サーチはもういいよ!充電が危ないんでしょ」

 緊急電力モードならそんなことぐらいは判断してよ、と僕は心の中で悪態をつく。


 『これは先ほど行なったサーチ結果から引き出しただけなので、問題ありません』


 あれ、なんか冷めた感じ。心が読めるのかな(汗)まあ、でもなんか人間味を感じて逆にホッとしたかな。

 「ならいいけど」

 『充電を著しく消耗する際は事前に警告します』

 「よ、よろしく」


 僕は気を取り直して歩みを進めた。

 森の中は薄暗く、影が揺れる。枝が折れる音、葉のざわめきが耳に届く。

「……やっぱり森の中は緊張するな」

『敵意ある反応はありませんでした。安心して進んで下さい』

 「信用するよ?」 

『ですが、新たな脅威には現時点では対応できませんので』

 ちょっと!怖いこと言わないでよ。とはいえ、充電を考えたら仕方がないか。

 新たな脅威となると、サーチの範囲外から来るわけだし…‥

 「感知スキルみたいのはないの?」

『当然、あります。しかし現時点では充電を優先すべきでしょう』

 だよね。サーチの範囲はかなり広かったし、森を抜ければ悪意の無い人間がいるんだから。

「じゃあ、行くよ」

 小さく呟き、慎重に歩く。

 するとほんの数分で木々がまばらになり、柔らかい光が差し込む開けた場所に出た。


 「よかった、思ってたよりずっと小さな森だったんだ」

 

 前方に小さな村の入口が見える。

 中には家がまばらにあり、その屋根の煙突から白い煙があがると、風に乗って生活の気配が届く。

 まだ人の姿は見えない。

村の規模や雰囲気は分からないが、森とは違う空気感が足元から伝わる。


 さらに少し歩くと完全に森を抜け、砂利道に入った。森の湿った土とは違う乾いた感触が足に伝わり、少し安心する。

「ああ……やっと森を出られた」

 いや、確かに短かったのだが、何が潜むか分からない異世界の森だ。サーチ結果があるとはいえ、僕は安堵のため息をついた。

 

 すると角を曲がった先に、ふいに一人の少女が現れた。

 小柄で赤いマント、大きな帽子を斜めにかぶっている。

 視線は鋭く、じっと僕を見つめていた。


 僕も思わず足を止める。胸の奥がざわつき、心臓が少し早く打つ。

「……女の、子?」

 ラムダが耳元で『敵意はありませんが慎重に』と囁く。

 けれど、好奇心の方が勝った。

 少女は軽やかに一歩踏み出す。

「森を抜けてきたのね」

 声は落ち着いていて、口元に小さな笑みが浮かぶ。

 僕は少し後ずさる。


「えっと……」


 初対面の相手に、どう話しかければいいのか迷う。

 帽子の縁を押し上げ、少女は肩を軽く揺らした。

 その仕草だけで、無邪気さと少し計算された鋭さを感じる。

目の光が僕の動きを追い、ほんの一瞬眉を上げた。

 

 「ふふっ、驚いた顔ね」

 声は軽やかで威圧感はない。

 でも、目の奥には何か計算された光があって、完全には安心できなかった。

 「ついてきて、よかったら村を案内するよ」

 大丈夫、だよね。

 僕は少女に続いてゆっくりと村の中へ足を踏み入れた。


 小さな木の門をくぐると、砂利道の向こうに民家が並ぶ。

 井戸の近くでは子供が走り回り、奥の畑では老人が作業している。

 生活感に触れ、少しだけ緊張が和らぐ。


 少女は僕の横を軽やかに歩きながら、ちらりと僕の様子を見た。

「私はリオ。旅人さん、この村には初めてきたのかしら?」

 自然な問いかけに、僕は頷く。

「はい……森を抜けてきたばかりで」

「ふふ、そう。森の先は怖いところもあるものね」

 リオは軽く手を振るようにして、村の小道を指した。

 「こっちに行けば、中心の広場に出るわ」

 その仕草から、村のことをよく知っていることが分かる。

 リオは僕の横を軽やかに歩きながら、ちらりと様子を伺う。

 目が合うたび胸の奥がざわつき、心臓が少し早くなる。

 僕は小さく頷き、後ろをついて行く。

 森の緊張と村の生活感、リオの存在——全てが混ざって胸がざわつく。

 でもそのざわつきには、何か面白いことが起こる予感めいたものが確かに感じられた。

 ラムダじゃない、初めて異世界での人間との会話だ。

 充電のことは忘れていないが、好奇心が胸の奥でじわりと芽生える——

 次に何が待っているのか、期待と不安が混ざった不思議な感覚だった。










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