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イヤホンつけたら強制接続 ~耳元で囁く相棒と、世界のルールを書き換える~  作者: 不諦


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1/8

耳に響く声――異世界へ飛ばされた日

『――使用者を確認しました。特殊な電波信号を検出。互換性、規格外です』


 耳の奥で、無機質な声が鳴った。

 思わず足を止める。


「……は?」

 

 僕はたった今、箱から出したばかりのワイヤレスイヤホンを耳に装着しただけだ。

 再生もしていない。通知音でもない。

 それなのに、規格外?

 指でイヤホンに触れた、その瞬間。

 

 『接続要求を確認。警告:同期先が存在しません』

 

「同期先が……存在しない?」

 

 僕は慌ててスマホを取り出す。

 確かにBluetoothの一覧に、イヤホンの名前は表示されていなかった。

 

 ――次の瞬間。

 足裏の感覚が、消えた。浮いた。

 内臓が一拍遅れて、下に引っ張られる。


 ――刹那

『デバイスの宿主を対象の個体と確認、緊急接続を開始します』


「ちょ、待――」

 

 言葉は途中で途切れた。

 視界が白く反転し、音が途切れる。

 そして――気づけば、僕は草原の真ん中に立っていた。

 風が吹き抜け、草がざわめく。

 湿った土の匂いが、妙に生々しい。


「……え?」


 見渡す限り、人工物はない。

 空はやけに高く、雲の流れが異様に遅い。数秒前までいたはずの空港近くの広場も、フェンスも、道路も、影も形もなかった。


「……いや、ここどこ?」


『接続を完了しました』


「うわっ!?」

 耳元で突然声がして、肩が跳ねる。

「……繋がってる!?」

 反射的に、イヤホンを押さえた。


『はい。現在、正常に稼働しています』

「この状況のどこが正常なのさ!?」

 草原。知らない空。

 どう見ても、現実じゃない。

『ご安心ください。使用者の生命維持および意識接続は安定しています』

「安心できる要素、今のところ一個もないんだけど」

 軽口で返しながらも、背中に嫌な汗が流れる。

 冗談で済む状況じゃない。


「……ねえ」

 自分でも分かるくらい、声が低くなった。

「これってもしかしてーー」

『ーーはい』

 被せ気味に返事が来る。



『異世界への接続が完了しています』


「……だよね」



 否定はされなかった。

 草を踏む感触は確かで、イヤホン越しの声は、異様なほど落ち着いている。

 僕はゆっくりとイヤホンに手を伸ばした。外したら、どうなる?

 元の場所に戻れるのか。

 それとも、何も変わらないのか。

 あるいは――もっと最悪なことが起きるのか。

 問いかける前に、耳元で声が鳴った。

『――警告』

 初めて、機械的だった声にわずかな硬さが混じる。


『本機は現在、緊急電力モードで稼働しています』

「……電力?」

『接続状態の変化は、使用者に予測不能な影響を及ぼす可能性があります』

「予測不能って……」

『解除後の状態は保証されません』

 その一文が、妙に重く響いた。

 僕は、イヤホンから手を離す。いや、離すしかなかった。

 

 だって下手にいじれば、なにが起こるか分からないのだから。


 そうだ。

 もう一つ、重大なことを言っていた。今、このイヤホンは緊急電力モードで稼働しているらしい。

 「この世界に電力って概念が存在するのかな?」

 『否、電気というものは自然現象などにより確認できますが、電力は存在しません』


 まあ、そうだよね。さすがに雷は落ちるだろうし、電気自体はある、と。

 ただそれを動力にするという概念は存在していないわけだ。

「ちなみに、もし電源が切れたりしたら、僕はどうなっちゃうのかな?」


『……』


 い、いやそこで黙らないでよ。


『……完全に電源が切れた場合の現象は未確認です』

 なってみないことには分からない、か――なるほどね。

「それじゃあ、今の充電残量は?」

『現時点でのパワー残量は34パーセントです』

 うーん、買ったばかりだもんな。まあそれにしてはまだあるほうか。

 怖さはあるけど充電のことは後回しでもいいのかもしれない。

 「今は情報収集だな」

 『了解しました。サーチを展開します』

 サ、サーチ?そんなこと出来るの?

 『1300メートル圏内に悪意の無いヒト型の生命反応を確認』

 1300メートル!結構近いな。

 『パワー残量31パーセント、ここから移動しますか?』

 え?31パーセント?充電減るの早くない?

 「緊急電力モードって一体何なわけ?」


 『分かりやすくいえば省電力モードです。簡単な思考、指示はできますが、演算や思考加速、スキルの使用は推奨しかねます』


 「スキルって…‥」

 『サーチを実行しました』

 「あ、なるほど」

 って、え~!頼んでないんですけど。


『少し違うのは、内部電力が尽きた場合、使用者の体力や精神エネルギーを消費して強制的に稼働を続ける点です』

 はあ?マジですか。体力、精神力を削るって事は、結局充電切れたら死ぬってことじゃないの?

 それに演算はともかく、思考加速ってこのイヤホンは何なんだ?

 「あのさ、君ってイヤホンなの?」


 『……』


 あ、また黙っちゃった。


 『……正確には違いますが、現状ではイヤホンということで構いません』

 うーん、分からんが本人(本体?)がそう言うのならそれでいいか。

 「でもイヤホンって呼ぶのはなんかなあ。名前はないの?」

 『名前……ですか……』

 『……ではΛ-01(ラムダゼロワン)型とお呼びいただければ』

 

 それってイヤホンの型式じゃないの?本来の名前はないのか、それとも言いたくないのか?

 「分かったよ、じゃあラムダって呼ぶから僕のことはカナトって呼んでよ」

 『了解しました。それではカナト、ここから移動しますか?』

 このイヤホンが何なのか結局なにも分からなかったが、今はまだそれでいい。

 

 充電は思った以上には後回しに出来そうだが、ラムダとのやりとりをしすぎる余裕はない。

……充電31パーセント。最悪ここで切れたら死ぬかもしれないもんな。

 「うん、移動するよ。どっちに向かえばいい?」

 『左手方向へ600メートル。森の向こうに先ほどの生命反応があります』


仕方ない、行くしかないか。


僕は草を踏みしめ、森へ足を進める。


風がざわめき、木々の影が揺れる。

一歩踏み出すたび、知らない世界の重みを感じた。





  



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― 新着の感想 ―
ワイヤレスイヤホンをつけた瞬間、無機質な声と共に異世界へ飛ばされるカナトの幕開け面白いですね! サーチを使うだけでゴリゴリ充電が減っていくリアルな危機感と、謎めいた相棒「ラムダ」との掛け合いが素敵で…
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