交渉成立
ラムダの指示の元、この交渉を締め括るべく僕は切り出した。
「それじゃあ決まりだ。僕がノアールを治す方法を見つける。そしてその報酬として通行料を貰う、ここまではいいね?」
「おまえに出来るならな。それに妖精の涙もやるのはいいらが、盗みはちないんらろ?」
そうなんだよ。盗むわけじゃないなら、どうやって取り返すつもりなんだ?
僕はラムダの答えに耳を傾け、そのままコナに伝える。
「それは、こうするのさーーー」
ラムダに言われるままに僕はその方法を伝えたのだが、その内容はその場にいるもの全てを驚愕させる内容であった。
「何ら!!?スラムのギャングを壊滅させるらと!?」
そう、ラムダはコナから妖精の涙を奪い、商人ギルドに売り払ったギャング達を壊滅させると言ったのだ。
いや、それを実際に言葉にしたのは僕なのだがーーー
「そんなバカな!?」
ーーー僕自身がついそう叫んでしまった。
「な、何ら?おまえが自分で言ったんらろ?」
『カナト、落ち着いて下さい。ワタクシは壊滅と言ったのです、全滅させるのとは違うのですよ?』
え、何が違うの?壊滅も全滅も同じでしょうよ。
『まあ、このスラムから一つのギャング組織がいなくなるという意味では同じです。ただ全滅は言葉通りの皆殺しですが、壊滅は組織として機能できないようにすることでも可能なのです』
方法があるんだよね?
じゃあそのまま続けるよ?
「ご、ごめんごめん。そう、ギャングを壊滅させるんだけど、それは組織を潰すという意味で言ったんだ」
耳元でラムダがああ言えこう言えとうるさいのだが、小難しくて敵わない。
「組織ーーーバーディス一家をらか?」
お?名前が上がったな。ラムダはこれを待っていたようだ。
「そうそう、このスラムのギャング全てをという意味じゃなくて、そのバーディス一家を壊滅させるということさ」
「そ、それでも三十人はいるんらぞ?」
「そのバーディス一家っていうのはどこかのさらに大きなギャングの傘下ということはない?」
「いや、ここのギャングはそれぞれが独立した組織らから、その心配はないらが……」
まあ、それでも僕がそのギャングを壊滅できるようには見えないだろうな。
というか僕もできる気がしない。
『バーディス一家が独立した組織というだけで情報としては十分です。更に大まかな人数が確認できたのは朗報ですね』
ラムダが更に続けるよう促してきた。
「うん、大丈夫。それで一つお願いなんだけどーーーそのギャングにされた事を冒険者ギルドに報告して、正式に討伐依頼をして欲しいんだ」
おっと?
これはうまいやり方かもしれないぞ。自分で喋っていながら思わず感心してしまった。
「そ、そんなバカな事がでちるわけないら!」
あれ?良い提案だと思うのだが、何か問題があるのだろうか……。
『当然、大アリです。ギャングの討伐依頼を正式にギルドに要請するならば、かなりの報酬を用意する必要があります。それにどこからかその情報が漏れればコナ達はかなりマズいことになるでしょう』
って、おいおいラムダさん?
あんたがギルドに要請するように促したんだが?
『大丈夫です、カナト。コナたちが誠心誠意、本気で要請をかければ今の事態は必ず好転します。ですからーーー』
よーし、そこまでいうなら続けるよ。
「大丈夫、その代わり本気でお願いして欲しいんだ。できれば子供たち皆で行って、切実な気持ちを伝えて欲しい」
「そ、それでもし依頼がでちたとちて、何がどうなるんら?」
「そうなれば、ギルドは必ず事前の調査に入るはずなんだ」
『ーーーそして、正式に依頼としてギルドの掲示板に載る前に、ワタクシ達でギャングを壊滅してしまうのです』
そうか!それならばコナ達が危険な目に合うこともないし、僕がギルドでその依頼を受ける必要もないんだ。
もし僕が正式に街へ入り、冒険者ギルドに登録できたとしても、ギャング討伐なんて大仕事をすぐ任されるはずがない。
どうするつもりなのかと思っていたけど、この方法なら確かにいけるかもしれない。
「どうかな?」
僕はラムダの言ったことをそのまま伝え、コナの反応を伺った。
コナが周りを見渡すと、子供たちが目を輝かせて僕を見ていることに気付く。
どうやら子供たちなりに、この作戦に希望を見いだしたらしい。
「コナ!ホントに希望を連れてきてくれたんだね!」
ドノバンが叫んだ。そういえばさっきコナがそんなことを言っていたっけ。
「このお兄ちゃんにお願いしようよ!」
「わたし達も頑張ってギルドにお願いするよ!」
他の子達も口々にコナへと駆け寄り賛成の意を表していく。どうやらコナはこれまで大分とこの子達の世話に苦労してきたようだ。ノアールの件では特にそうだったのだろう。
「み、皆らーーー」
「どうやら決まりのようだね」
「そうらな。おまえは変な奴らが信用でちるみたいだ。もう知ってるとは思うらが、アタチはコナーーーコナ・ブルーアース、このスラムで子供たちの面倒を見ているノームら」
そう言ってコナは帽子を取ると、右手を僕に差し出した。
僕はその差し出された手を握り、そこで初めて自己紹介をすることとなった。
「僕はカナトーーーただのカナトだよ。それじゃあ他の子供たちも紹介してよ」
コナは握手をした方とは逆の手で涙を拭うと、「分かったら」ーーーと独特の方言で答え、僕に子供たちの紹介を始めたのだった。




