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イヤホンつけたら強制接続 ~耳元で囁く相棒と、世界のルールを書き換える~  作者: 不諦


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16/20

スラム街の子どもたち


 『カナトの本当の意味での異世界は、ここから始まるのかもしれませんね』


 「…………」

 

 街道の先に広がるのは、防壁に囲まれた商業都市ゴンゾーラ。

 僕たちはあれから二日かけて村を離れ、街道へ出た。 そしてさらに一日歩き続けてようやく街に辿り着いた。


 『遂にそのボロボロになったスーツともお別れできますね。ほら、カナトーーもっと喜んでいいのですよ?』


 「…………」


 僕はあまりの疲労に全く声が出せない。


 『どうしました?どこか具合でも悪いのですか?もう街が見えてきましたよ?』


  僕の足は棒のようになり、すでに喉はからからだった。


「もーーー!ちょっと黙って!」


 ーーあなたの異世界はここから始まるのかもしれませんね、キリッ!じゃあないんだよ!


 確かにラムダのおかげで魔獣やら夜盗やらとは出会わなかったし、最短距離でここまで来ることが出来た。


 それに感染が怖いから身体や衣類は、スキル《清浄》できれいにしてもらった。


 食べるものも飲むものも、すべてラムダのスキルで得たものだ。


 文句など言えるはずもないーーー


 ーーーないのだが……


 『カナト、エネルギー残量は43%です。もっと移動を急がないと、この街ですぐにお金が稼げるとは限らないのですから』


 って、エネルギーが減るの早すぎるよ!せっかく精霊石で満タンになったのに、もう最初の時とあまり変わらないじゃないか。

 せっかくのランクSSSの魔道具だが、イヤホンと融合したことの弊害があまりにも大きすぎるんだよなあ。


 そう、だからーーー


 『移動手段までをもスキルに頼ることは出来ません。それではすぐにエネルギーが尽きてしまいます』

 

 ーーーだとさ。でもこんな整備されていない道を革靴で歩き続けるのは、今の僕にはしんどすぎる。ていうか、この世界の人たちってそんなに強靭なわけ?


 『だからトレーニングが必要だといったのです。確かにカナトはこの世界の身体に再構成されていませんが、それにしても同年代の地球の人間と比べれば体力は見劣りしますからね』


 「わ、分かったよ、とにかく街に入ろう。もっと動きやすい格好なら、僕だって少しはマシになるさ」


 『そうですね。この街はかなり大きいですからカナトのことを認識出来る人間のサンプルがさらに取れるでしょうし、ワタクシの目的につながるような何かを見つけられるかもしれません』

 

 ーーーラムダの目的か。

 

 本当に一体何のために僕はこの世界に連れてこられたのか…。

 たしか以前、ラムダは僕を意識なく選んだと言っていたーーー。だが、今のところ僕がこの魔道具のためにしてやれることなどほとんどないのである。


 とはいえ僕が何かしてやる義理などないのだがーーーこの世界に来てしまった以上は協力関係を築くこともやぶさかではない。


 何と言ってもこの先ーーーラムダの充電問題さえクリアできれば、このランクSSSの魔道具を相棒にこの異世界を旅するのはさぞ楽しいだろうからーーー


 「よーし、行こッか」

 『了解いたしました』


 街へ近づくにつれ、防壁の巨大さがよく分かる。灰色の石を積み上げて築かれた壁は、軽く十メートルはありそうだった。

 かなり大きな街のようだが、どこかの国が納める城下町なのだろうか。


 その中央には大きな門が開かれ、人や馬車が絶えず出入りしている。


 『どうしますか?』

 「どうしますって、やっぱり通行料みたいなの取られるの?」

 『可能性はあります。納める国、または領主次第な所もありますが、少なくとも身分証は求められると推測できます』

 

 ああ、どうしますっていうのは、僕の特性を利用して中に入るかどうか聞いたんだな。

 まあ確かにお金もなければ身分証も無いものな。


 「番兵?みたいなのがいるけど、もし僕に気が付かないようなら、悪いけど今回はサッと入ってしまいたいよ」


 ここでまた一悶着は勘弁願いたい。かといってラムダのスキルを使う余裕はもうないのだ。


 『そうですね。それでは人間が少なくなる時間までは待った方が良いでしょう』


 なんだか悪いことをしているような気分でもやもやするが、背に腹は代えられない。多少のことには目を瞑らなければならない時もあるのだ、と僕は自分に言い聞かせ暗くなるのを待つことにした。


 辺りが薄暗くなるにつれ人の流れが落ち着いていき、いよいよ門が閉じようかという頃に僕たちは動いた。

 

 「これで気がつかれたら今日は諦めるしかないかな?」

 『いえ、その時はワタクシのスキルで入るべきです。エネルギーは多少消費しますが、先のことを考えれば街中の方が安全の確保が簡単なのですから』

 

 それもそうか。しかしラムダのスキルで入るとなれば、お金にしろ身分証にしろ偽造で誤魔化すことになる。


 (頼むから気付かないでくれよ)


 僕はそっと門に近づいていき、やや遠目から番兵の視界に入る。彼は僕の方を見てはいるが、僕の存在には気付いた様子がない。


 村の人たちの様子から、僕を認識していない人間は僕から話しかけたり、そこに何かが存在していると意識して僕を見なければ気付くことはなかった。


 忍び足は得意ではないが、もし相手が僕を認識できないならば《静寂》を使うほどではないはずだ。


 そーーーっと、そーーーっと


 よしよし、こっちを見ているが全く話しかけてくる様子がないぞ。これは間違いなく僕を認識していない。


 『それにしてもカナトを認識できない人間の方はかなりのサンプルが取れていますが、全く共通点がありませんね』


 ということは、認識できる方の人間に何かしらの(共通点)があるのだろうな。

 そして認識できない人たちは(それ)を持たないという共通点があるのだろう。

 

 もし僕を認識できる人間が見ていたらかなり間抜けな光景なのだが、僕はそろーーっと番兵の横をただただ忍び足で通り閉じかけた門をくぐっていく。


 閉じていく門を背に、僕は街に向かって防壁のトンネルを歩く。かなり大きな防壁だが、それでもトンネルは数メートルしかない。


 そして、後ろで門が完全に閉じようとしたその時ーーー


 「待て!」


 番兵の一人が突然声を上げた。


 ーーー!!?


 (ば、バレたか?)


 僕は足を止めて振り返る、とーーー


 ドン!


 「ウワッ!?な、なんだ?」


 何かが勢いよく僕にぶつかって驚きの声を上げた。女の子か子供のような声だったが、トンネルの中でさらに薄暗かったこともあり、ハッキリとは分からなかった。


 その影はキョロキョロと不思議そうに周りを見渡すと、街に向かって再び走り出した。


 「今、誰か門を走り抜けて行ったぞ?」

 「ああ、コナだろ。いつものことさ、気にしなさんな」

 

 向こうで番兵がそう話し門を閉じる。僕にぶつかったことは番兵はもちろん、本人も気がついていないようだ。


 番兵とは顔見知りのようだし、気づかれなかったのは幸いだった。

 

 「よし、ちょっと焦ったけど、なんとか街に入れそうだぞ」


 街頭の灯りが差し込むトンネルの出口を目指し僕は歩を進めた。街に入り込んでしまえばなんとかなるだろう。たが、もし通行料があるならあとで必ず払う。


 僕は何かもやもやした状態でいるのが、精神状態の中でも一番嫌いなのだ。


 そのためにもこの街での活動が僕たちの今後を大きく左右することになる。僕は気を引き締めて街への一歩を繰り出した。


 と、その一歩目を踏みしめた時だった。


 「兄さん、あんた通行料払っちないね?」

 

 脇からいきなりそう声をかけてきたのは、おそらく先ほど番兵にコナと呼ばれた人物だ。


 しまった!認識されていたのか…。


 「心配はいらない、番兵には黙っちてやるよ。だから大人ちくアタチについてきな」


 しゃべり方からするとどうやら女の子で、さらに子供の様でもあった。

 騒ぎにしないというなら、今は着いていくしかないか。

 「わ、分かった」

 「よーし、じゃあこっちだ。ついちきな」

 

 確かに見た目は女の子で更に子供のはずなのだが、妙に貫禄があり頼れる感じだ。見た目に騙されない方がいいのかもしれない。


 『人種を特定しますか?』

 ラムダが聞いてきた。危険を知らせないということは、危険がないか今はついていく方がよいと判断したのだ。

 

 (いや、今はいい)

 僕は小声で返す。魔石も鉱石も持たない今は僅かなエネルギー消費も抑えたい。


 「どうちた?こっちだ、早くちろ」


 コナはその場で足踏みしながら手招きし、僕たちが早く動き出すのを促していた。


 走るのは嫌だな…。疲れているのに……などとは言っていられない。万一コナの気が変わって番兵にチクられても敵わない。

 

 僕は仕方なく彼女が動き出すのに合わせて同じ方向に走り出した。

 コナの動きはしなやかで俊敏、僕に合わせてかなり速度を落としているのだろうーー余裕があるのが見て取れる。


 当然、僕はついていくので精一杯だったが、それでも周りを見る余裕くらいはあった。

 (スラムっぽいな)

 景色が徐々に寂れていき、さらに街灯も減っていく。コナから離されたら、すぐにでもはぐれてしまいそうだ。

 

 「こっちだ」


 コナは分岐するときは必ず声をかけて、僕が迷わないよう誘導してくれる。

 

 「ここだ、入るち」


 僕は息を切らしながらも懸命に走り、なんとかコナの目的地までついて来ることができた。

 

 雑に作られたカーテンを開けると、中にいたのはボロボロの衣服を身にまとった大小さまざまな子供たちだった。


 ーーーストリートチルドレンだろうか


 どうやらコナはそのリーダーらしいーーー

 

 そして何より――

 この街にも、やはり僕を認識できる人間がいたのである。

 

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