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イヤホンつけたら強制接続 ~耳元で囁く相棒と、世界のルールを書き換える~  作者: 不諦


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15/20

進むべき道


 消えたベアウルフ、何も言わずに村を出てきた事、突然失なわれた精霊の加護、そして僕をただ一人しっかりと認識出来た少女、リオーー


 「結局、何だったんだろうな……」


 村を離れ町に向かう道を歩きながら、僕はそう呟いた。この世界に来てからまだ二日だというのに色々なことが起きすぎて、僕は未だ状況が理解できずにいる。


 『確かに怒濤の二日間、という感じでしたね。ワタクシもさすがに一旦情報を整理する必要性があると言わざるを得ません』

 

 そうだよなーーとはいえこんな道端でやりたくはない。はあ、次の町までは一体どのくらいかかるのだろうか。

 僕は街道へと伸びる整備の行き届かない獣道を、徐々に小さくなっていくあの村を背に歩きながら、深くため息をついた。


 『ワタクシは歩きながらでも一向に構いませんよ?むしろ安全面を考慮するならば、すぐにでも実行すべきかと』


 「そ、そうか、確かになあ……。せっかく充電が最大に回復したんだもんな。今のうちにできることはやっといた方がいいか」

 

 『そうです。これまでの情報を全てインプットして《解析》を行い、今後ワタクシたちがどう動くべきかの方針を固めておくのが非常に重要だと判断します』


 《解析》かーーーとなると、やっぱりベアウルフの魔石を取り逃したのは痛いな。

 かといってわざわざ魔獣を狩りにいくような危険な真似はしたくない。

 

 『魔石や鉱石ならばそこそこ大きな街に行けば、ギルドや工房で買うことも出来るのではないですか?』


 そうか、確かに冒険者はそれでギルドから報酬を得るというのが異世界の常だ。ギルドはそれを日用品や武器、防具にするために工房へ売っているだろうし、そのどちらかには必ずあるだろう。

 でもーーー今の僕にはお金がない。結局、何をするにもまずは生活するために先立つものが無いと……


 「……って、ああっ!」


 『どうしました?』


 「宿屋のお金ーーー結局払わないまま来ちゃったけど、これって犯罪なんじゃない?」


 『まあ、言われてみれば確かにそうですね。しかしここはカナトがいた世界ほど厳格ではないので大丈夫でしょう。それにカナトのことはすでに忘れていると推測されます』

 

 あ、そうかーーー自分の特性というものをすっかり忘れていた。僕はすっかり見えなくなった村の方をわずかに振り返り、その事実に一抹の寂しさを感じた。


 『それでもカナトを見れば思い出すかもしれませんからね。なんとか収入を得る方法を考えていつかは払えるようにしておくべきです』

 

 「そう…か、分かった。それで、ベアウルフの魔石が手に入らなかったけど、それでも今から《解析》しちゃうの?」


 『そうですね、それがいいでしょう。ベアウルフの魔石がなくとも一つ鉱石の情報は得られましたし、充電も実際に行いましたから、今後のエネルギーの問題にもある程度は対応が可能です』


 ある程度、か。まあなんの指標もないよりははるかにましか。

 「いいよ、ラムダ。《解析》頼む」


 『承認しました、スキル《解析》を実行します』


 ~♫~♫~♫

 え、この音楽は!?

 僕が元の世界でよく聞いていた歌じゃないか?もちろんヴォーカルはないが、聞き馴染みのあるメロディーが心地いい。

 

 最初の《解析》の時は電話で待たされると良く聞くアレだったからな。ずいぶん改良されたじゃないか。


 僕はしばらく道なりに歩きながら、その音楽に酔いしれていた。


 「ふーーん♫ふーーん、ふーーん♫」


 『ーーー解析完了しました』


 あ、くそ!これからサビだったのにーー、なんて言ってる場合じゃないか。


 『カナトーー今回の解析からはかなり重要な事実が一つと、推測を含めた確認しておくべき事柄が二、三検出されました』


 ほう?

 「じゃあ重要なほうから報告頼むよ」


 『カナトにはーーーいや、我々には大きな欠点が2つあります。一つはもちろん充電問題です。充電が切れ、カナトの生命、精神エネルギーの消費に移行した際、カナトは数秒から長くても数分で死に至ることが判明しました』


 ……そう、だよね。確かにあのベアウルフ戦の直後、ラムダの充電がなくなった時、僕は精霊が来なければ間違いなく死んでいたと思う。


 『これはワタクシの持つエネルギーがあまりに膨大すぎることに起因しています。それがイヤホンというカナトのいた世界において、比較的容量の小さなガジェットと融合したこと。ワタクシがランクSSSの魔道具であるということが、この問題をさらに深刻化させたわけです』


 精霊石が充電一発で砕け散ったんだもんな。


 そりゃ僕みたいな完全生身の人間の生命エネルギーなんかではひとたまりもないわけだ。

 

 『もう一つがそれです。カナトがこの世界の身体に再構成されていないことで、ステータスを得られていないこと。これは最初から分かっていたことではありますが、前回スキル《自動戦闘》を使用したことで、さらなる詳細が判明しました』


 「なんか良くなさそうだな……」


『解析によればカナトはいくらトレーニングを積んだとしても、ワタクシの《自動戦闘》に耐える身体になることはおそらくないと推測されます』


 はー、やっぱり。だから無駄なんだよ、筋トレなんて。

 

『対ベアウルフ戦では充電が十分に無かった為に併用できませんでしたが、今後はスキル《自動戦闘》を使用する際には《身体強化》の併用が必須となるでしょう』


 しかしこれは非常にコストが高いため、長時間続けての使用は魔石や鉱石のストックがない限りは乱発できないとラムダは言う。

 であれば、今後もし魔石や鉱石を手に入れられたとしても、無用な戦いは避けるべきかーー

 

 「そ、そうかぁ……。それだと冒険者として生計をたてるっていうのは難しそうだね」


『実はそうでもありません。パーティを組むというのはお薦めしませんが、カナト単独ならばそれも可能でしょう』


 た、単独?そうか……下手にパーティ組んでも足手まとい確定だもんなぁ。でも回復役とかいなかったら普通冒険なんか出来なくないか?


『それは受ける依頼内容次第でしょう。ただし、どちらにせよあまり目立つ行動は出来ませんね。カナトはその存在が認識されにくいわけですから、これを今後も活用していくのが賢明です。そうなると、あまり目立ちすぎれば本来認識されないはずの人間にも認識されるようになる可能性がありますので』


 「なるほどーーで、解析では僕のこの状態はなんだって?」

 

 『実はこの現象に関しては解析がほとんど進んでいません。というのもこれまでカナトを認識できない、または認識した後も忘れていくという人間に関しては、村でかなりのサンプルが取れました。しかし、逆に全く問題なく認識できたサンプルはリオとあの精霊だけなのですから』


 うーーん、それじゃあ仕方がないか。今後は僕を認識出来る存在のサンプルを集めるのも重要なわけだな。


 「それで、どうやって冒険者をやるつもり?」


 『それは収支の計算が立てば問題なく始められますが、ワタクシの燃費と補給源の入手が釣り合うかどうかが大きな問題になります』


 なるほど、収支のバランスが合う環境であり、尚且バランスに見合う魔石や鉱石を手にしてもあまり目立たない場所でなら、か。


 『そうです。ですから行動するならば、かなり大きな街の活発なギルドである必要がありますね』


 まあここはそういう世界なのだから、どこかには条件の合う街があるのだろうがーー。


 「うん、これである程度今後の指針は固まったかな。やっぱり僕はトレーニングしなくてもいいんだな」


 『それは駄目です。基礎体力とある程度の筋力はつけて頂かないと……そうですね、ボディビルダーのようになれとは言いませんが、せめてボクサーや格闘家ぐらいには鍛えておけば、戦闘時の選択肢はかなり広がるはずです』


 えーーー、格闘家?


 「う、うん……が、頑張るよ……」

 

 『あ、カナトーーその分かれ道は右方向へ』


 おっと、凄いな。とりあえず適当に歩いているのかと思ったが、どうやらちゃんと街に向かっているみたいだ。

 

 「どのくらい歩けば次の街につくかな?」


 『そうですね、ついでにワタクシの記憶から大陸全土の地理的な把握も試みたのですが、この辺りには記憶がありませんでした。しかし先ほどの道を左に向かうと、方角的に魔境と呼ばれるパルミジャーノ山脈へ続くことは分かります』


 なるほど、街に向かっているというより、危険を回避しながら進んでいるのか。

 

 『おそらく二、三日程歩けば次の街が見えてくると思いますが……』

 

 ……二、三日か。ま、まあ異世界だからな。 下手したら二、三週間なんてこともあるのだろうからまだマシなほうか。

 

 「それにしてもラムダの記憶ってホント何の記憶なのかな?元の何かだった時の記憶か、それとも魔道具になってから僕と出会う前のものなのかな?」


 『……その辺りのことは《解析》でも答えが出ませんでした。確かにカナトと出会った時に初めてワタクシは意識をはっきり持ったわけですが、その前からすでに魔道具であった可能性もないとは言えません』


 でもなぁ、この世界にイヤホンはないだろうから別の魔道具だったのか?

 前に言っていたように神のような存在だとしても、はたして地上のことを記憶しているものなのかーーー。

 

 『分かりませんーーしかし、それは今すぐに解決するべき問題ではないとワタクシは考えます。ワタクシがかつてどういう存在だったにせよ、今重要なのはカナトのこの世界での生存戦略なのですから』


 それは、まあ……そうなんだけども。ラムダは今ランクSSSの魔道具なわけだし、僕が死んだら彼女を欲しがる人間には事欠かないだろうからね。

 

 『とにかく街を目指しましょう。しばらく歩くことになりますが、これもトレーニングの一環だと思って頑張って下さい』


 分かったよ……、確かに体力はあればあるに越したことはないものな。

 そうして僕たちはその他の細かな部分を更に共有できるよう、今回の解析から得られた情報について話しながら街を目指した。


 ラムダの充電が最大に回復したお陰で、感知系のスキルを上手く使い危険を回避することができたし、僕の疲労も精霊の癒しの魔法で回復していたのでかなりの距離が稼げた。

 ーーーが、さすがに日が暮れてきたところでラムダが声をあげる。


 『まもなく街道に繋がるはずですので、そこまでは歩いてしまいましょう。街道に出られれば宿舎などが見つかると思いますので』


 そこで僕はふと我に返った。

 「ねえ、ラムダ。僕たちには野営できるような物が何一つないじゃない?」


 『ええ、ですから街道に出て宿舎を探すのでしょう?』


 「でもーー僕たちにはお金もないじゃないか」


 『…………』


 「…………」

 

 そうして僕たちは、初日から野宿が確定した。

 どうやら前途は思った以上に多難らしい。

 ーーー全く、これでは冒険者になる以前の問題だ。

 僕はため息をつきながらも、ラムダに何か野営に使えるスキルがないか尋ねた。

  


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