第96話:国王の審判
ついに下された、国王による冷徹な断罪。
セレーナの追放と、エドワードの廃嫡。
アイリスの気高さが、王国の法さえも動かしました。
静まり返った玉座の間。床に飛び散った深紅の染料が、セレーナの桃色の裾を醜く汚し、彼女の失墜を無言で物語っていた。
玉座に鎮座する国王陛下が、重々しく身を起こす。魔法という奇跡が存在しないこの国において、王の言葉は絶対の法であり、運命そのものだ。
「……静粛に」
その一言で、広間を支配していた喧騒が氷のように凍りついた。陛下のアイスブルーの瞳――リュカ様へと受け継がれたその峻烈な眼差しが、床に這いつくばるセレーナ、そして呆然と立ち尽くすエドワード様を射抜く。
「セレーナ・ダルトン。貴様の私欲と嫉妬のために、我が国の至宝とも呼べる針子を貶め、あまつさえ北方の主との絆を裂こうとした罪、万死に値する。……捏造された証拠は、今この場で無効とする」
「あ、陛下……! 私は、私はただ殿下をお慕いして……っ!」
「黙れ。愛の名を借りた醜悪な虚飾など、聞きとうない。……貴様には、爵位の剥奪と、今この瞬間からの王都追放を命じる。二度とその汚れた足をこの地の土に踏み入れることは許さん」
セレーナの顔から、最後の希望という名の色彩が剥がれ落ちた。
一方、エドワード様は縋るような目で陛下を見上げたが、向けられたのは実の親とは思えぬほどの冷徹な一瞥だった。
「エドワード。……一人の女の嘘も見抜けず、己の私欲のために忠実な婚約者を雨の中に捨てた貴様の無能さは、王位を継ぐ者に相応しくない。貴様の立太子を白紙とし、北方の開拓地での謹慎を命ずる」
「な……っ! 父上! お待ちください!」
エドワード様の叫びを無視し、国王陛下は私と、私の隣で堂々と立つリュカ様へと視線を移した。
「アイリス・ランチェスター。貴殿に掛けられたすべての嫌疑を晴らし、その稀稀なる技術と気高さを称え、新たに『王室第一等技術官』の称号を授けよう。……そして辺境伯リュカよ。貴公の慧眼と守護こそが、この真実を救った。礼を言う」
広間に響くのは、魔法の光よりも確かな「正義」の旋律。
リュカ様は私の腰をさらに強く抱き寄せ、包帯の巻かれた左手で私の指先を握りしめた。
「陛下、感謝いたします。……ですが、アイリスは私の伴侶。称号よりも先に、私の隣にいる権利を何よりも優先させていただきます」
独占欲に満ちたその宣言に、会場から感嘆の声が漏れる。
私は深く、完璧なカーテシーを捧げた。
泥に塗れたあの日から、一針ごとに紡いできた誇りが、今、最高の形で結実したのだった。
第96話をお読みいただきありがとうございます。
国王陛下、実の息子にも容赦ない決断でしたね。セレーナの没落も決定的です。
「リュカ様の『私の伴侶』宣言が最高!」「ざまぁの極みで胸が空く」と思ってくださった方は、
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次話、完全に崩壊したセレーナの末路。第97話「虚飾の崩壊」へ。




